昭和サラリーマンの追憶

 

恵まれた人はノブレス・オブリージュを 

 

      

 

           前田 功


 新たに首相となった岸田文雄氏。祖父の正記氏、父の文武氏も衆院議員の3世議員。父方の叔母の夫は元広島県知事で参院議員、法相を務めた宮沢弘氏。弘氏の兄が宮沢喜一元首相だ。華麗なる一族というしかない。

 6歳のとき、当時通産官僚だった父の転勤でニューヨークへ。そこで小学校に入り、3年生の時帰国、千代田区立麹町小学校へ。その後区立麹町中学を経て開成高に進学。(麹町中学というと、筆者若かりし頃、エリートの王道は「番町小学校→麹町中学→日比谷高校→東大」だと言われていたのを思い出す。)

 

 開成は昨年の東大合格者数が140人、40年連続1位という日本一の進学校だ。(ちなみに2位の灘は97人)。だが、開成出身の首相は初めてだ。輩出した首相の多い高校をあげると、1位が学習院高等部の3人(近衛文麿、細川護熙、麻生太郎)、2位が麻布の2人(橋本龍太郎、福田康夫)だ。「やっと開成から首相が出た」と開成OBたちがはしゃいでいるそうだ。組閣に当たっては、開成人脈もささやかれている。今回経済安全保障担当相に登用された当選3回の小林鷹之議員(46)も開成だ。

 開成出身はあちこち出てくる。いまやクイズだけではなくあれこれバラエティにも出ている元東大王の伊沢くんも開成だそうだ。ナベツネこと読売新聞主筆の渡邊恒雄もそうだし、元の大物財務次官で五輪組織委員会でも悪評だった武藤敏郎もそうだ。

 

 開成はじめ有名進学校には、金銭的だけでなく様々な面で恵まれた環境で育った者しか入ることはできない。欧米や戦前の日本で言えば、貴族階級というべき人たちだ。

 こうした特権階級の人たちには、庶民の痛みをわかる感性を持ってほしい。こういう連中が庶民の苦しみを理解することはかなり難しいことだろうが、特権は、それを持たない人々への義務によって釣り合いが保たれるべきだ。

 彼らには、ノブレス・オブリージュ(直訳すると「位高ければ徳高きを要す」、あるいは「高貴さは(義務を)強制する」)を自覚してほしい。

 財産や、権力・社会的地位というものは、自分自身の能力ではなく、社会から与えられたものであるから、自己を犠牲にしてでも果たすべき社会的義務があるという考えで、昔の騎士道にも通じる考え方だ。リーダーには「社会のためならわが身を投げ出すこともいとわない」覚悟が求められる。欧米の貴族たちは、ノブレス・オブリージュに基づき、危険な戦場にも率先して赴いた。

 いま、国民の多くは、モリカケ・桜・河合夫妻への1億5000万円の真実・甘利の金銭疑惑などを明らかにすることを望んでいる。岸田氏には、ノブレス・オブリージュとして、安倍・麻生・甘利のやったことを明らかにすべきだ。これを為さなかったことによる法律上の処罰はないが、社会的批判・指弾を受けたり、倫理や人格を問われることになる。

 安倍・麻生に逆らうことは、自民党内では、危険な戦場に赴くのと同じくらいリスキーかもしれない。しかし、エリートたる岸田氏にはこれをやる義務がある。