雨宮処凛の「世直し随想」

            困窮者が発熱した時


 「感染爆発」や「医療崩壊」と言われる新型コロナウイルス感染拡大の第5波の中、困窮者支援の現場に今までにない状況が起きている。

 それは、住まいを失い、ネットカフェなどで生活している人の中から、陽性が疑われる人が出ているということだ。

 都内の炊き出しや医療相談、また支援団体のメール相談に、発熱や体調不良を訴える人々の声が届く。味覚障害がある人もいる。この原稿を書いている現在、「自宅療養」という名の自宅放置状態にある人は10万人以上。が、自宅がない人はいったいどうすればいいのだろう?

 支援者たちがさまざまなところに連絡して判明したのは、この国には、住まいも保険証も所持金もない人の陽性が疑われた場合、当人が速やかに検査を受けてホテルなどに隔離され、食事やお金の心配をせずに療養できる仕組みは、何ひとつないということだ。

 発熱した人をそのまま路上に放り出すわけにもいかないので、支援者たちはなんとか宿泊場所を確保したりと奮闘している。もはや民間のボランティアができる範囲をとうに超えている上、命がけである。今はまだ数人だから対応できるが、一桁増えれば破綻することは目に見えている。

 コロナ禍が始まって一年半。住まいがない人が感染する可能性について政府のどの部署も本気で考えず、なんの準備もしていなかったことにがくぜんとする。

 「ステイホーム」からも「自宅療養」からも排除されてしまう人たちが為政者から見えていないことが、ただただ悲しい。