北 健一 「経済ニュースの裏側」


山口FGの変と天下り長官 

 昨年6月、「地域創生フォーラム」(日本経済新聞社主催)が開かれた。麻生太郎財務大臣のオープニングあいさつで始まったフォーラムで山口フィナンシャルグループ(山口FG)の吉村猛社長(61、講演後に会長就任)らが基調講演すると、閉会挨拶で遠藤俊英金融庁長官が称賛した。

 「銀行文化の変革にまで踏み込む必要があると(吉村社長は)おっしゃいました。従来の銀行業からの脱却を意識した新たなビジネスモデルを模索する在り方の一つとして、われわれ金融庁は注目していきたい」

 銀行改革のモデルとして金融庁が注目、称賛してきた山口FGで6月25日、〃事件〃があった。午前中の株主総会で承認された吉村会長・CEOが、午後の取締役会で解任されたのだ。代わってCEOに就いた椋梨敬介社長(51)は記者会見で、「新規事業の進め方に関して取締役の間で意見が分かれたことが発端」と説明した(6月29日付日経新聞)。

 吉村会長は新規事業のために子会社を乱立したが、極めつけが「アイフル銀行」だった。大手消費者金融アイフルと手を組んで「新銀行」を設立しようとしたのである。

 「従来の銀行業から脱却」した「新しいビジネス」かもしれないが、文化というか常識の、かなり外にある。銀行の信用で安易に貸し、多重債務者と不良債権の山を生み出したらどうするのだろう。

 この件はご存知なかったかもしれないが、吉村氏を称賛した遠藤長官は退職後、10社もの企業に天下った。そのうちリッキービジネスソリューション(顧問)は地域金融機関向けコンサル、トパーズアドバイザリー(同)は金融機関向けアドバイザリー、KPMGジャパン(シニアアドバイザー)は監査・税務・コンサルで(『FACTA』8月号)、金融庁のお仕事との利益相反の疑いが拭いきれない。

 8月31日、山口FGは吉村氏が進めた新銀行構想について、「社内合意を形成せずに案件を進めようとしたこと等、ガバナンス上さらなる調査の必要性が判明」したとし、事実関係を調べると発表した。

 特定経営者とじっこんになり、銀行運営をかき回した揚げ句、自分はちゃっかり天下り。こんなご仁が金融庁トップなら、「金融処分庁から育成庁へ」の掛け声もむなしい。 

 (右上写真は吉村会長の解任発表=NHKテレビより)