真山  民「現代損保考」


                             従来の保険のあり方が一変

CASEが保険業にもたらすバリュー・チェーンのアンバンドリング

 

 


 自動車産業の大変革CASEとFinTech

 

 これまで100年に一度といわれる自動車の大改革であるCASE─Connected(ITと結びつき快適性や安全性が向上)のC、Autonomous(自動運転)のA、Sharing(シェアリング)のS、Electric(モーターと電池で動く)のE─のうち、Autonomousについては今年の6月号、Electricについては1月号で取り上げた。

今月号は再びCASEについて、一連の急激な動きが損保の販売、引受の従来のあり方を大きく変えつつあることについて報告する。

 それを考える資料として、「大和総研調査年報」の2016年夏号に掲載された「FinTech から金融イノベーションへ~ 金融業のエコシステムに影響を与えるイノベーションとは」と、同じく大和総研の編著による『FineTechと金融の未来 10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?』(日経BP社 2018年)を取り上げる。

 年報の「第2章 FinTech の適用と金融イノベーション(銀行・保険)」、および『FineTechと金融の未来』の「第1章 Finetech企業 先端事例の10年後の可能性を探る」の「3.保険業」で、筆者は「保険業のバリュー・チェーンのアンバンドリング化(従来モデルの課題)」について、下図を使って以下のように述べている。

 (なお、保険とITの融合について、今まで「InsureTech」という言葉を使ってきたが、InsureTechもFineTechの一部という意味で、ここではFineTechという用語で報告する。)

 

 

 

 バリュー・チェーンのアンバンドリング化が懸念されている保険業

 

 保険業の一般的なバリュー・チェーンは、「研究開発・商品製造」「販売」「引受」「保険金請求」「リスク資産・投資管理」で構成されるが、各バリュー・チェーンの構成要素に対して、代替モデルによる影響が確認されており、保険会社や代理店は、それに対応することが重要な課題となってきている。

 世界経済フォーラムも「保険業はバリュー・チェーンのアンバンドリング化が唯一懸念されている業界」と述べているが、具体的にはどういうことなのか?

 バリュー・チェーンとは、「事業活動を機能ごとに分類し、どの部分(機能)で付加価値が生み出されているか、競合他社と比較して、どの部分に強み・弱みがあるかを分析し、事業戦略の有効性や改善の方向を探る」ことを指し、「アンバンドリング化」とは、 関連する複数の要素にまたがる製品や事業を細かい単位に分割・分離すること。それまで一つにまとめて販売されていた商品を要素ごとにばらし、個別に購入・契約できるようにすること」を指す。

 そのことを理解したうえで、二つの報告を読むと、こうある。

 

 1.「販売」では、複数の商品を一覧比較できるウェブサイトや、巨大な顧客基盤を持つITプラットフォーム運営体のアルファベット(旧グーグル)、アマゾン等のテクノロジー企業の参入により、既存の保険会社のバリュー・チェーンから、個人顧客や中小企業に対する販売チャネルがアンバンドルされる(切り離される)。これは、従来の代理店の個人顧客や中小企業の契約がアルファベット(旧グーグル)、アマゾン等のテクノロジー企業が設立した保険企業に奪われることを意味する。

 

 2.「引受」では、たとえば、自動車の自動運転の普及に伴い、メーカーの製造責任が増し、主な被保険者の主体のシフト(ドライバーから自動車メーカー)を促す可能性がある(その分、保険料に下押し圧力がかかる可能性が出てくる)。さらに、カーシェアリング等のシェアリング・エコノミーが拡大する中で、自動車や住宅等の資産に対してPAYG(Pay As You Go =使用分を支払う)という考え方が広がり、個人個人が自動車や家を所有することを前提とした従来の自動車保険、火災保険が見直しを迫られる。

 

 3.個人の運転の仕方に依存する事故の発生リスクが低下し、リスクがコモディティ化(共通化)する。同時に、自動運転のプログラムの誤作動など新たなリスクが発生する。つまり社会におけるテクノロジーの進化が保険会社の従来想定していないリスクを生み出し、そこに“隙間”を生み出す可能性が出てくる。

 「コモディティ化」とは、市場に流通している商品がメーカーごとの個性を失い、消費者にとってはどこのメーカーの品を購入しても大差のない状態のことをいう。消費者にとっては商品選択の基準が販売価格の違いしかないことから、メーカー側(=保険会社)は「安い商品」を投入するしかなくなり、結果的に製品の価格が下がる傾向がある。反面企業にしてみれば価格競争で安く商品を提供せざるを得ず、結果的に儲け幅が減ることもあり、企業収益を圧迫する傾向がある。

 

 続く他業界からの損保参入

 

 以上の淘汰圧力はメーカー側にとっては収益を上げにくくなり、かつ新規参入のハードルが下がり競争が激化するなど負の側面が出てくる。一方で、消費者には均質化と低価格化をもたらし、必要なものが一定の品質で安く豊富に市場に流通するため入手しやすくなるメリットもある。

 経済の規制緩和・自由化の中で、損保にも次のような事態が休みなく押し寄せている。 

 1.他業界からの損保業界への参入(例えばソニー損保、楽天損保)、

 2.海外の世界的保険企業の日本市場進出(例えばアクサ損保、チューリッヒ保険)、

 3.日本の大手損保と大企業の共同出資によるインターネット損保の設立(例えば東京海上ホールディングスとNTTファイナンスの出資によるイーデザイン損保、三井グループの出資による三井ダイレクト損保)、

 

 これらは、損保で働く人間すべてに大きな負担をもたらすことになったが、今後も「保険業のバリュー・チェーンのアンバンドリング化」の中で、この負担はますます増大することは間違いない。