真山  民「現代損保考」


      進む「非対面販売」で格差拡大

                              


 

 新型コロナウイルスの感染拡大で人との接触を避ける動きが広がるなか、対面を前提としてきた販売や営業を非対面で進める企業が増えている。生損保も例外ではない。

 例えば、第一生命保険が年度内にも約40億円を投じて営業職員にスマートフォンを配布。顧客と直接会わずにビデオ会議などで保険の契約を終えられる体制を整える(日経 8月5日)。 

 

 損保では、損害保険ジャパンが企業向けの商品を非対面で販売する認可を金融庁から取得、10月からオンラインで保険契約を結べるようにする。ビデオ会議や電話で商品内容を説明し、押印や署名は求めない(同 8月9日)。

 MS&ADの原典之グループCEOは、アフターコロナの損保ビジネスについて「保険の見積もりや事務手続きなどがオンラインで完結したり、代理店がリモートで顧客に保険商品をすすめる局面が増えていきそうだ」と語る(東洋経済オンライン 8月2日)。

 

 日本損害保険協会が編纂した「募集コンプライアンスガイド」では、「非対面募集」について、こう説明している。「保険募集では、原則として契約者と面談のうえ、その意向の把握・確認、商品説明・重要事項等の説明を行い、申込書等への署名・押印を取り付けるが、契約の更改や契約内容の変更(異動)等、契約者が対面募集と同じレベルの対応を確保できる場合は電話や郵送による非対面での契約手続きができる」

 ただ「電話募集」においても、代理店など募集に当たる者は、「パンフレット等の募集文書を事前に送付し、電話で契約者が契約の締結・加入の適否を判断するのに必要な情報を説明する」ことが必要とされている。

 つまり、損害保険のような複雑な商品については、「非対面募集」が可能なのは、契約の更改や異動に限られていた。それが、withコロナあるいはafterコロナにおいて、原典之CEOの話や損保ジャパンの「企業向けの商品まで非対面で販売する」ことを金融庁が認可するという動きに見られるように、損保の「対面募集」の原則はどんどん緩和されていく方向にある。

 

 再度生保について述べれば、コロナ禍の中で、大手生保が生保レディーなど営業職員の訪問販売の自粛を余儀なくされ、4月~6月に新規契約保険料(年換算)を36%~65%減らす一方、ネット募集に専念するライフネット生命保険の4月の新契約件数は、1万1078件と前年同月比で約2倍、5月も同34%と大幅に伸び、保険料(年換算)も4月は約87%、5月も約29%の大増収を果した。ライフネットの顧客の約8割を占める20~40代の層が、在宅率の高まりとともに急速に流れ込んできたのが、大幅増の要因と見られている。

 

 AIやビッグデータの活用が進んでいるアメリカの保険会社では、例えばシカゴに本社を置くキン・インシュアランスのように、顧客から住所情報のみを取得し、AIやビッグデータ技術を用い、不動産リスト、建物の記録、衛星画像やドローンによる撮影画像といった5000以上の情報源から情報を収集し、数分で保険の見積もりや引き受けの可否を判断し、契約手続きもオンラインで行うところがある。

 こうしたICT(情報通信技術)やInsuretech(保険とテクノロジーの融合)を駆使し成長する保険会社や代理店と、そうでないところとの格差は拡大するだろうし、前者が後者を淘汰し吸収する流れはますます強まり、金融庁や政財界はその流れを促すだろう。

 

 現在、アメリカでは上層・中層・下層の家族集団は2対5対3であるといわれる。1970年代、この割合は1.5対6対2.5であった(『なぜ中間層は没落したのか』 ピーター・テミン著 慶応大学出版会)。上層と下層の割合が増えたところに、アメリカの貧富の差が増している深刻さがうかがえるが、新型コロナウイルス感染拡大→対面募集の自粛→オンライン活用による非対面募集の拡大が保険業界における中層の減少につながらなければ幸いである。