北健一「経済ニュースの裏側」


        メンバーシップ型雇用は時代遅れ? 


 大丈夫か、日経? と言いたくなる記事が、「日経新聞」6月20日付1面に載った。「『ジョブ型』労働規制が壁」。リードにはこうある。

 「企業が職務内容を明確にして成果で評価する『ジョブ型雇用』の導入を加速している。新型コロナウイルスの影響を受けた在宅勤務の拡大で、時間にとらわれない働き方へのニーズが一段と強まっているからだ。だが成果より働いた時間に重点を置く日本ならではの規制が変化の壁になりかねない」

 日本の雇用は就職ならぬ就社で、さまざまな職務を経験しながら昇進していく。そうしたメンバーシップ型に対し、「この職務をいくらで」と契約し、仕事がなくなれば雇用も終わるジョブ型の方がいいというのは、一つの考え方ではある。

 だとしても、メンバーシップ型かジョブ型かは経営戦略や雇用慣行の問題で、労働規制の問題ではない。日本にもジョブ型が広くあることは、食品スーパーが「レジ、時給1000円」「鮮魚、時給1200円」と仕事に人を付けるジョブ型の従業員募集をしていることからもわかる。また、「ジョブ型」と「成果で評価」とは関係がない。

 この記事の筆者は、「日本型雇用=メンバーシップ型=成果より時間」「欧米の雇用=ジョブ型=時間より成果」と思い込み、前者は時代遅れだと言いたいのだろう。だが米国大企業でも中心的正社員はメンバーシップ型であり、上記の図式は成り立たない。

 記事には「営業担当者は客先に出向かず自由に時間を使って営業成績を高めることも可能なはずなのに、今の制度では裁量労働を適用できない」ともあるが、いったい誰の話なのだろう。営業の仕事の裁量は顧客にあり、だから時間外・長時間労働になりがちなのだ。

 根本的な誤りは、労働基準法の残業代割増の趣旨を「成果より時間」と捉え、「今では時間と成果が比例しない仕事も増えた」と主張する点である。残業代割増の趣旨は、長時間労働へのブレーキであり、長時間労働させた労働者への補償である。成果主義は「成果が出るまで長く働く」ことになりかねないため、ブレーキの利きはより重要になる。

 記事は、頭ではなく足で書くもの、思い込みではなく現場取材にもとづくべきである。