真山  民「現代損保考」


  「令和2年7月豪雨」でまた国民に回されるツケ

         温暖化対策への反応鈍い大手損保

                              


 豪雨をもたらす線状降水帯

 7月4日、熊本県を流れる球磨川沿いの八代市、人吉市など計13か所での氾濫決壊で始まった豪雨災害(国は「令和2年7月豪雨」と命名)は、中国地方を経て、長野県、静岡県まで及んだ。

 梅雨末期は太平洋高気圧と中国大陸上の高気圧の力が拮抗し、九州周辺に梅雨前線が停滞しやすい。さらに気温の上昇に伴う多量の水蒸気が、東シナ海から梅雨前線に流れ込むことで、積乱雲が次々に発生する線状降水帯も生じやすく、豪雨が多発する(防災NPO「CeMI気象防災支援・研究センター」田代誠司上席研究員)。運ばれた水蒸気を水に換算すると毎秒約40万立方メートル、アマゾン川の約2倍に相当する大気の川が日本の上空に横たわり、それが大量の雨を降らせた。

 

 多額の風水災害保険金と火災保険料率の引き上げ 

 損保各社は今年も台風や豪雨災害によって多額の保険金の支払を余儀なくされそうだ。2018年度と19年度いずれも3度の豪雨や台風で、車両保険、火災保険、新種保険の支払い保険金は2年続きで1兆円を超えた。その8割が火災保険金であるところから、大手4社は来年1月、火災保険の参考純率(損害保険料率算出機構が算出する支払保険金に充てられる純保険料の料率で、損保各社が保険料率を決める目安としている)を5~6%上げる。昨年10月に続き1年あまりで2度の値上げとなるが、これには19年度以降の保険金が反映されない。19年度、今回の西日本豪雨による支払保険金を含む20年度の火災保険金が料率に反映されるのはこれからであり、火災保険料率の引き上げはさらに毎年続くことになる。

  「脱石炭」に消極的 大手損保

 日本で台風を含む豪雨災害が多発するのは、日本が台風の通り道に位置すること、自動車、発電などでの化石燃料の利用が地球温暖化を招き、台風や豪雨を頻発させていること、さらに日本には蛇行する急流の河川が多いことから、鉄砲水や土砂崩れが頻繁に起こるという、いくつもの悪条件が重なっているからだ。

 化石燃料と地球温暖化の問題と保険会社の関わりについては、環境NGOの国際ネットワーク「Unfriend Coalキャンペーン」が発表した世界の大手保険会社30社の気候変動・脱石炭への取り組みに関するランキングに注目する必要がある。

 それによると、アリアンツ、アクサ、スイス再保険、ミュンヘン再保険など、石炭関連事業への保険引き受けを停止あるいは制限する方針を掲げた保険会社が上位を占める一方、日本の大手損保の東京海上、MS&AD、SOMPOは脱石炭の方針をとらず、最下位となった。Unfriend Coalキャンペーンは「日本の損害保険会社は気候変動によって経営に深刻なダメージを受けているのに、気候変動を深刻化させる石炭関連事業への保険引き受けを継続していることは、自ら損害保険ビジネスの持続性を損ねている」と警告する。

 

 ダム建設再開の是非 

 球磨川の氾濫は、「東の八ッ場、西の川辺川」といわれ、中止されていた川辺川(球磨川の支流)ダムの建設再開の是非についての論議も喚起している。民主党政権時代、無駄の象徴とされた八ッ場ダムと川辺川ダムのうち八ッ場ダムは完成したが、川辺川ダムは「清流を守れ」という声に押され、歴代の熊本県知事も反対の意向を示してきた。ところが、球磨川の氾濫は「川辺川ダムの建設が中止されたから」という声が、「民主党政権は悪夢」と非難する自民党筋などからネットに飛びかい、ダム建設再開の声が勢いを持ち始めている。

 しかし、「ダムがあれば、洪水や川の氾濫が防げるものではない」(水問題に詳しい元東京都環境科学研究所研究員・嶋津暉之さん)し、「(豪雨に対して)さらに高くて強靭な堤防で対抗しようという“力を力で押さえ込む”というやり方はきりがない。堤防を高くすることで、知らぬ間に、より危険なギャンブルへと、掛け金を積み上げている」(『リスクの正体』上里達博千葉大学教授著 岩波新書)という指摘も重要である。

 7月3日経産省は、稼働中の石炭火力発電所140基のうち、旧式でCO2排出量が多い114基をできるだけゼロに近づけ、高効率型26基の稼働を維持のうえ、さらに新たに建設し、30年度までに、総発電量に占める石炭火力の割合を、現状の32%から26%に引き下げると発表した。

 

 温暖化対策への努力見えぬ国と損保

 梶山弘志経産相は「脱炭素社会の実現を目指すため」と説明し、メディアは「石炭火力、抑制に転換」(日経)、「コール(石炭)にクリーンはない」と言っていた小泉進次郎環境相も「敬意を表する」と持ち上げている。

 しかし、CO2排出量をみると、石油火力「従来型」が0.867であるのに対し

高効率型の「USC」は0.80~0.84であり、減少(改善)幅は5%程度にすぎない。これが「CO2排出量抑制をめざした転換」と言えるのか。おまけに、石炭火力発電量の割合を32%から26%に減らす代わりに、原発の発電量を30年度までに6.2%から20~22%に大幅に引き上げるとしている。

 欧州では、フランスが22年までに、イギリスが25年までに、ドイツも38年までに石炭火力発電量の全廃をめざし、再生可能エネルギーに切り換えることを目指している。

 繰り返される豪雨と大地震によって国民は大きな被害を被ったうえ、将来にわたって高い保険料を負担させられる。温暖化対策への努力が見えない国と損保に対する国民の目は、これから一層厳しくなっていくだろう。