暇工作「課長の一分」

            高い賃金か差別なき賃金か


 先月号に「損保会社の最高報酬者と最低賃金者の格差が65倍、格差はうつ病など万病の元」、という趣旨の文を書いた。するとこんなご意見が寄せられた。

「暇さん、格差とか差別は大きさだけが問題じゃないよ。差別されるということ自体が耐えられないことなんだよ」

 まったくその通りだ。先月引用した著書「格差は心を壊す」にも、うつ病の原因は「格差そのものではなく、序列化されること」だと、指摘されている。

もともと人の能力に序列などなく、それは人為的に烙印されるだけだ。そして、それこそが大きなストレスに繋がるのだ。

 かつて、東京海上の社員たちが「少数派労組(全損保東京海上支部)の組合員であることを理由とした賃金差別は許せない」とたたかいに立ち上がったことがあった。他損保の社員たちの支援もあって、たたかいは勝利したのだが、一部の支援者からの「彼らは差別されているといっても、それでも我々他社社員たちよりずっと高い賃金を得ている」という声がなかったわけではない。それでも東京海上のなかまたちは怯まなかった。同じ職場で同じように仕事をしながら、差別・序列化されることは「額の問題ではなく、人の尊厳にかかわる人権問題だ」と訴えたのだった。

 職場の賃金水準が他より低くても、そこには平等で公正な基準が存在する職場と、他よりは高い賃金水準を誇るといっても、そこには恣意的な差別が横行している職場と、いったい、どちらが体と心にいいのか。「それでも、自分は賃金水準のたかい職場へ行きたい」という人もいるかもしれない。でも、それは幸せの意味を物欲中心に考える短絡思想ではあるまいか。

 うつ病は格差に大きく起因する。しかし、東京海上のなかまのように敢然とそれに立ち向かい、たたかう心を失わなければうつ病を跳ね返すパワーが生まれる。

 そういえば、もう一つ興味深い指摘がある。たたかう労働組合が存在している職場では、うつ病が少ないというのである。直感的には同意できる命題だが、前記著書は全世界的規模の調査・研究から、そのことを科学的に証明して見せている。

 当時の東京海上のなかまたちのたたかいは先駆的だった。同時に、「君たち、差別されていると言うけれど、それでも俺たちより高い賃金もらっているじゃないか」と率直な問題提起をしながらも、惜しみなく支援の手を差し伸べた損保労働者たちの気高い精神も素晴らしいと思う暇である。