暇工作「課長の一分」

          最高・最低年収の比較倍率は


   5月9日、TBSテレビの「報道特集」で、東京海上日動の社員・I氏(47歳・名古屋支店勤務))の失語症とのたたかいが報道された。

 I氏はディーラー営業担当だった5年前、脳梗塞が原因で言葉を失った。しかし、自らの努力と周囲の献身的なサポートで2年前に職場復帰を果たした。いまは、新たな職種で元気に勤務する傍ら、失語症患者の支援活動や講演活動などの社会貢献も行っているという。善意と温情に溢れたいい話だった。「さすが、東海。なんと社員を大切にする会社か」と大向こうから声がかかりそうな物語だ。

 

 「しかし…」と、番組を観た東京海上のあるOBは言う。

 「もちろん、本人の努力、家族や職場の人々の個々のサポートなどはたしかに感動的です。職場に、そうした文化があることは、OBとしても誇らしい気持ちです。しかし、こうした善意や温情は、職場の人々が自ら積み上げてきたものであって、会社としての一貫したポリシィかといえば、それは違います」

 そのOBによれば、会社の善意と温情に浴する社員とそうでない社員は、さまざまな基準で分けられているという。たとえば、一定以上の役職に就いたものとか、その社員の勤務態度や貢献度、従順性…。とりわけ少数派労組に所属している社員かどうかは、決定的なモノサシだ。少数派労組社員には、賃金をはじめ昇進や定年再雇用など、待遇上でも大きな差別を与え続けてきた。

 

 さらに、そのOBはI氏のケースについて、もう一つの側面を指摘する。

 「40代前半の脳梗塞発症、ディーラー営業マンという経歴から、並々ならぬ過労、サービス残業が背後にあったのではないかと推察します。その場合は、労災や損害賠償問題も出てくるし、過労死に繋がる企業の働かせ方という社会的批判も起きる。そういう流れを消すための善意と温情ではなかったのかと…」

 

 当のテレビ番組は、企業の「美しい」一面を映し出しているが、その裏面を伝えることはない。美しい話はあくまでトリミングされた一部の情景である。

 企業における善意と温情とは、社員に対しては支配の道具であり、世間に対しては企業の暗黒面をバラ色の風景に変えて見せる手品である。

 善意と温情という職場の人々に引き継がれている文化や、それを受けている社員ではなく、それを恣意的な道具として使う企業の手法を問題にしているのである。誰にでも平等に起こり得るアクシデントであっても、誰にでも平等に善意と温情が与えられるわけではない。そうした格差と差別だけは、すべてに共通して貫かれている。世間を欺く隠蔽体質とともに、そこのところを見落としてはならない。