斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」


 

 

          自死とリアリティ番組

 女子プロレスラー・木村花さん(22歳)の急逝は、あまりに衝撃的だった。当初は公表されなかった死因が、実はSNSでの誹謗中傷に深く傷ついた末の自殺だったらしいことが、すぐに明るみに出た。

 彼女はリアリティ番組「テラスハウス」(フジテレビオンデマンド、ネットフリックス配信)に出演していたのだが、そこでの言動が一部の視聴者の反感を買ったようだ。経緯はかなり報じられていることもあり、本稿では割愛。

 

 問題は、この番組の実態だ。シェアハウスで暮らす男女6人の恋愛模様を、「演出抜き」だと謳ってそのまま流し、視聴者が観察する。1999年にオランダで放送開始された「ビッグ・ブラザー」の大ヒットを機に、世界中に似たような番組が乱立。SNSが発達した近年は、視聴者がリアルタイムで意見を交換できる「参加型」の様相を強めていた。多くの場合、視聴者たちは特定の出演者に感情移入するものだという。しかもSNSは利用者に全能感を抱かせやすいメディアだから、危険きわまりない。報道によれば、米国では2004年から16年までの間に、少なくとも21人のリアリティ番組出演者が自殺しているとのことである。

 

 事件を受けて与野党は、ネット上での誹謗中傷を防ぐ対策を、法整備を含めて検討するそうだ。だが遅すぎる。特に問題視されてこなかっただけで、これまでだってSNSが引き金を引いた子どもの「いじめ」自殺が、いくらでもあったのに。

 私たちはいったい、何をしていたのか。といって、たとえば匿名のSNSを禁じ、実名を原則にするなどの措置も難しい。個人に対する誹謗中傷の抑止効果は期待できても、一方では反体制的な言辞を発した人が、すべて権力側に特定されかねないからだ。簡単に解決できる問題ではないのである。つくづく恐ろしい時代になった。