保険募集・イマムカシ(その7)

                    鈴木 健


           人気あった月掛け火災保険            


 

 昭和30年代のことだが、日動火災社の満期返戻金付き1年12回払いの月掛け火災保険は、大衆保険分野で人気が高かった。いまでこそ、自動車をはじめ、家電、金融商品など分割払いは抵抗なく受け入れられているが、保険料の分割払い方式は画期的な試みだった。更新時に返戻金6か月分を持参する。支払った保険料の半分が返ってくるわけだから大きい。契約者の奥さんから「主人のいないときに来てね」と電話が入ったりするほど、魅力的な商品だったのだ。

 保険金額に限度があり、不動産50万、動産50万の合計100万円だった。その後限度額はアップされて150万+150万合計300万円で、返戻金は4か月分に変更された。ところが、それでも限度額以上の契約を希望されるお客さまがいる。そういう場合の奥の手は、動産3社といわれた富士火災、大東京火災の知り合いの外勤社員に契約を預ける手法をとった。口座振替のない時代である。自社専属の社員・集金係の苦労は並大抵ではなかった。

 この保険の人気が高まると同時に、「動産3社が無利息で満期返戻金を預かっているのは、おかしいではないか」という問題提起が、大手損保社から大蔵省当局に出されたようだ。背景には、この時期、日動火災社は単年度だが火災保険の普通部門で収入保険料トップの成績を上げていたということもあったのだろう。その後、大手社はノウハウのなかった分割払いの保険販売を始めた。同時に満期返戻金のある長期積み立て保険(いわゆるチョーソー)が発売されたが、そういう経緯の中で1年契約の満期払い戻し金のある火災保険は消滅した。

 しかし、日動火災社など動産3社が大衆保険分野で、月掛け保険・分割払いの概念を広めた役割は大きい。動産3社は、大衆のニーズを敏感に察知し、その要求にこたえるという時代の先端を走っていたのだ。