素敵な青年と出会った


守屋真実

もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 


 首相官邸前で素敵な青年と知り合った(写真) 。

 

 Kさん、34歳。辺野古埋め立て反対スタンディングをしている時に一人で近くに立っていたので、一緒に歌いませんかと誘って加わってもらった。

 さすがに若者は音感がいいのか、初めての歌でも少し聞くとすぐに一緒に歌えるようになり、楽しいと言ってくれた。門倉さとしの「たんぽぽ」は、「明るい曲だけど、本当はガラスの檻と言われた労働者いじめと闘う歌なんだよ」と話すと、「そんなひどいことがあったんですか」と痛ましい表情で聞いてくれた。感性の豊かな人なのだろう。スタンディング解散後、いったん経産省前に行き、国会正門前を通って帰ろうとしたら、 Kさんが一人で拡声器を持ってアベ政権に抗議のスピーチをしていた。検察庁法、種子法、辺野古埋め立て、モリカケ・桜疑惑等々よく勉強しているのに感心。創価学会三世だけれど、公明党は支持しないぞとも言っていた。

 

 次に会ったのは一週間後。国会正門前での「怒りの可視化」集会が終わり、国会議事堂駅に向かって歩いていたら、内閣府に向かって一人で声を上げていた。集会に来るのが遅くなって叫び足りないので、まだ明かりがついていた内閣府に抗議していたのだそうだ。この日は、胸に「赤木さんを忘れない」、背中に「スーパーシティ法反対」と書いた手製のゼッケンをつけて歩いていた。話を聞かせてほしいと声を掛けたら快く応じてくれた。中学生の時に良い先生と出会って、政治に興味を持つようになったのだそうだ。仕事がコロナ休業になってしまい時間ができた時に黒川元検事長の一件が起きたので、黙っていてはいけないと行動を起こしたという。普通は柔らかな声で穏やかに話す人だが、なかなかの気骨者に違いない。こんな青年がいてくれることを本当にうれしく思う。

 私が若い世代と政治の話をするのが難しいと言うと、すぐにスマホを取り出してyoutubeで「瀬谷路外おじさん」を見せてくれた。中年の男性が美しい沖縄の海岸で赤い褌を絞めて、早口の関西弁で『違う意見の人がいたってええやん。芸能人が政治的な発言したってOK。』といったことを喋りまくる。なるほど、わかりやすいし、言っていることは正しい。それでも初めて見た時には強い違和感があった。正直なところ、私にはこういう話し方はできないと思った。

 でも、職場で20代のアルバイターに「瀬谷路外おじさん」のことを話したら、翌日『昨夜見ました。面白かったです』と言ってくれた。あ、そうか!何も無理して自分で喋くらなくてもいいのだ。喋くりは上手な人にまかせて、私はそれを広めるだけでいいのだと気付いた。私にはなじみのないスタイルだけど、諧謔や風刺、パロディーは、歌と同様、常に庶民の武器なのだ。

 

 いつの時代も若者と中高年の間には齟齬があるものだと思うし、それは必ずしも悪いことではない。私たち中高年者が若者の文化に媚びる必要はないし、表面だけ真似をしても滑稽なだけだと思う。しかし、双方がどこかで繋がり、理解し合い、尊重し合うことは必要だ。コロナ禍で苦しみ、アベ政権に疑問を持ち始めた若者がいる。アメリカの人種差別や香港の自由抑圧に抗議する若者もいる。気候変動や食品ロスの改善に取り組む人もいる。この国の若者も静かに目覚めつつある。自分が牽引車になろうとするばかりでなく、新しい世代の運動を後押しする力にもならねばならない。

 Kさんに出会えたことは、大きな幸運だった。