損保経営者は薦めそうもない本


 ジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄 上下』

       (倉骨彰訳 草思社文庫)

 

       

                岡本 敏則

 


 

 原題は『GUNS,GERMS,AND STEEL The Fates of Human Societies』。

 1998年度ピュリッツァー賞一般ノンフィクション部門受賞。朝日新聞が2010年4月に行った「ゼロ年代の50冊」(2000~2009)のベスト1に選ばれた。

 著者はハーバード大学で生物学学士号、ケンブリッジ大学で生理学の博士号を取得した。現在はUCLA社会科学部地理学科教授。ニューギニアで延べ36年フィールドワークを行った。

 

 「人類社会の歴史は世界の異なる場所で異なる発展を遂げてきた。現代の世界はユーラシア大陸系の民族や北アメリカ大陸への移民の子孫達が、世界の富と権力の大部分を支配している。これから先、彼らに代わって、アフリカの人々やオーストラリアのアボリジニたち、アメリカ先住民たちが世界を支配する可能性は薄いだろう。なぜ世界は、富と権力が不均衡な状態にあり、人類はなぜそれぞれの大陸においてこれほどまでに異なる歴史をたどってきたのか」。

 本書はこの謎を過去1万3000年の人類史という壮大な時間枠のなかで解読しようとしたものである。本書は800頁もあるので「鉄・病原菌・銃」という書名のもととなった章を取り上げる。

 スペイン人コルテスによる1521年のアステカ帝国征服、1531年ピサロによるインカ帝国征服の武器となったのが、「銃、病原菌、鉄」だった。スペイン兵はまず銃を発射した。その物凄い爆発音に驚き逃げまどう人々。次に鉄製の剣や槍や短剣などで襲った。インカのカハマルカの惨劇である。7000人以上が惨殺された。インカは木製の棍棒、スペイン兵の鉄兜には効かなかった。また刺し子の鎧は、鉄製の武器の攻撃から身を守ることができなかった。

 

 世界史ではいくつかのポイントにおいて、疫病に免疫のある人たちが免疫のない人たちに病気をうつしたことが、決定的な要因になった。天然痘をはじめとして、インフルエンザ、チフス、腺ペスト他、伝染病でヨーロッパ人が侵略した大陸の先住民の多くが死んでいった。インカ帝国、アステカ帝国は天然痘によって徹底的に打ちのめされた。ヨーロッパからの移住者たちが持ちこんだ疫病は、彼らが移住地域を拡大するよりも速い速度で南北アメリカ大陸の先住民部族に広まり、コロンブスの「大陸発見」以前の人口の95%を葬り去った。オーストラリア先住民のアボリジニの人口を減少させた天然痘の最初の大流行は、英国人がシドニーに住み始めてまもない1788年に起こっている。ジャレドも述べている「アメリカ先住民がヨーロッパを植民地化したのではなく、ヨーロッパ人が新世界を植民地化した直接の要因は、銃器・鉄製の武器、そして騎馬などに基づく軍事技術、ユーラシアの風土病・伝染病に対する免疫、ヨーロッパの航海技術、ヨーロッパ国家の集権的な政治機構、そして文字を持っていたことである。(アステカもインカも文字は持たなかった)」

 

 最後に伝染病について。「人類史上、最も猛威を振るったのは第一次世界大戦が終結した頃に起こったインフルエンザの大流行で、世界で2000万人が命を落としている。1346年から52年にかけて流行した黒死病(腺ペスト)では、当時のヨーロッパの全人口の4分の1が失われ、死亡率70%という都市もあった。腺ペストにやられた中央アジアの地域から、ノミのたかった毛皮がヨーロッパに運ばれたのが原因だった。突然大流行する感染症には、共通する特徴がある。感染が非常に効率的で速いため、短期間のうちに、集団全体が病原菌にさらされてしまうことだ。今日ではジェット機で遠くの大陸まで短時間で行くことができる。1991年、ペルーのリマを飛び立った航空機が同じ日のうちに4800キロ離れたロスアンゼルスまで、何10人ものコレラ感染者を運んできた。我々が病気にかかるのは、病原菌が進化しつづけていることを示している。病原菌は人間の体内という環境で生存し繁殖していけるように進化していく」。

 今はCOVID-19 が猛威を振っているが、最近でもMERS、SARS、デボラ出血熱という新しい感染症が発生しているように、人類は常に「新型VIRUS」に直面している。