現代損保考

真山 民


   新型コロナウイルス対策に損保はどう貢献できるか
                               弱者救済こそ要だが…
           

           

         人通りも絶えた東京・新宿・高島屋前(撮影・池田京子)


  〈損保の方針変更とは…〉

 東海日動、損保ジャパン、三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保の大手4社が、新型コロナウイルスの感染者が出て休業した店舗に対し損失を補償する方針を固めた。「柔軟な対応を求めた金融庁の意向を踏まえての方針変更」という。

 企業向けの賠償責任保険や火災保険で感染症の発生による休業損害が発生した場合に保険金を支払う契約、例えば、三井住友海上のビジネスキーパー(事業活動総合保険)休業損害補償条項のような契約が、その対象となる。新型コロナウイルス禍で休業やイベントの中止を余儀なくされ、その損害に苦しむ中小の企業や興行者を救う保険があってもよいのではと思っていたところへの大手4社の方針変更だが、変更より微調整という方が正鵠を射ていよう。補償の内容は損保ジャパンなどが「休業した飲食店などに一律20万円」、東海日動が「介護事業者が契約者の場合、消毒費用など実費を最大100万円」程度。行政の休業要請による損害や、興行中止保険が支払い対象外というのも変わらない。

 

 〈アメリカでは…〉

 これより先アメリカでは、議会が損害保険会社に対し、新型コロナウイルスの感染拡大で事業を中断した企業の損失を保険の補償対象にすべきだと圧力をかけ始めた(日経4月2日)。複数の州議会もコロナに伴う損害を対象にすることを保険会社に命じる法案を審議し、連邦議会も新法の提案を検討中という。保険適用で米企業の業績悪化に歯止めをかける狙いだ。

 米議会では、超党派の下院議員グループが米損保業界の4団体に書簡を送り、コロナによる事業中断で生じた損失も対象に含めるよう要請し、さらにコロナの損害を強制的に補償対象に加えることを命じる法案も検討している。米国では州ごとに保険会社を規制・管轄しており、ニュージャージー、マサチューセッツ、オハイオの各州議会では、すでに法案の審議を始めている。

これに対し、米損保協会は「従業員100人未満の中小企業だけでも補償は月2220億~3830億ドルに上り、大手損保の資本が8000億ドルにとどまることを踏まえれば、業界全体の支払い能力への影響は甚大だ」と国や州の圧力に応じる気配はない。

 

 〈感染症適用外の背景〉

 感染症が保険の適用外となった背景には、2003年に世界的に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)による保険金支払いの拡大がある。SARSで生じた損害に対し、米保険のAIGなどから支払われた保険金は、香港のマンダリン・オリエンタル・ホテル1社に対するものだけで、1600万ドルにも上った。その後、損保各社は感染症を損害の免除条項に入れた。

 興行保険はイベントを中止・延期した場合、その原因が悪天候や交通機関のマヒである場合の損害を補償する。しかし、来場者が見込みを下回った場合、資金不足、テロ行為や戦争、それに今回の新型コロナウイルスの発生または発生の恐れに起因するイベントの中止・延期に伴う損害は補償対象外である。

 それでも例外はある。テニスのウィンブルドン選手権や全英オープンゴルフである。ウィンブルドン選手権主催者AELTCは感染症を原因とする大会中止に伴う保険に加入していたおかげで、チケットや放映権料など売り上げの約半分の1億4100万ドル(約152億2200万円)を受け取れる。もっとも、年間200万ドルもの保険料を過去17年間支払ってきたという。全英オープンゴルフも、主催者R&A

が「非常事態に適用できる保険があり、それはパンデミックによる中止の補償も含まれる。R&Aは常に最適な保険を購入してきた」ことを明らかにしている(以上日経4月12日、時事コム4月15日)。

 日本の場合はというと、そもそも興行保険自体があまり普及していないうえ、新型コロナウイルス感染およびその予防を理由としたイベントの中止・延期はやはり補償の対象外である。これに対し生命保険では「災害割増特約」によって、ひと月数百円の特約保険料を支払えば、新型コロナウイルスに感染して亡くなっても多めに保険金を支払うとか、海外から帰国後自宅に帰れず、ホテルでの滞在を余儀なくされた場合の費用も支払う措置をいち早く講じた(損保も海外旅行保険ではその措置を講じている)。

 

  〈本気度が見えない〉

 損保は過去に、例えば自衛隊のイラク派遣に際して、「非戦闘地域への派遣」を理由にPKO保険を引き受けるなど、国が要請すれば、本来免責である戦争リスクすら引き受けてきた。また、毎年発生する台風や豪雨による大規模災害についても保険料を頻繁に引き上げるなど、国民への負担を国と一体となって押し付けながら、国の国土河川行政の失敗による巨額の損害の尻拭いをしてきた。つまり、国策への批判抜きで従順な協力体制を貫いてきたが、社会的弱者をどう救うかの視点が見えない。今回の方針変更も国の意向に沿ったものであり、「休業店舗への補償」と言っても、それは行政からの要請による休業は含まれない上、前記のように損保ジャパンの「20万円」、東海日動の「実費最大100万円」程度の金額でお茶を濁しているに過ぎない。安倍首相の言葉と同様、本気度が伝わってこないのである。