損保経営者は薦めそうもない本


『「戦後80年」はあるのか』集英社新書 内田樹第2章「比較敗戦論」

 

       

                岡本 敏則

 



 本書は8名が執筆しているが今回は内田樹氏(神戸女学院大学名誉教授 1950生)を取り上げた。氏は思想家であるとともに武道家でもある。
 氏は『永続敗戦論』の白井聡氏との対談で、日本以外の敗戦国はどうなのだと気になり論考したのが本章である。第2次大戦の敗戦国は日独伊だけではなく、フィンランド、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、タイ、は連合国が敵国として認定した国だ。フランスは戦勝国?戦勝国アメリカの強さは。
 ◎フランス―1940年、フランスはマジノ線を破られドイツと休戦協定を結んだ。国の北半分はドイツの直接統治下に入り、南半分はペタンを首班とするヴィシ―政府の統治下に。連合国に宣戦布告はしていないが、大量の労働者をドイツ国内に送り、兵站を担い、国内ではユダヤ人迫害を行い、フランス国内からアウシュヴィッツに送った。ドイツが潰走した後、ヴィシ―政府に協力したという名目で、裁判なしで数千人が処刑されたと言われているが、史料もなく真実は分からない。戦後フランスを救ったのは「自由フランス」のド・ゴールの存在だった。ドイツの犯した様々な戦争犯罪に加担してきたフランスは、戦勝国民として終戦を迎えてしまい、フランス人は「敗戦を総括する義務」を免除されることになった。その結果、旧植民地「アルジェリア」、「ベトナム」に対してもいまだに謝罪していない。
 ◎ドイツ―「ドイツは敗戦経験の総括に成功した」と言われているがそうなのか。戦後ドイツは東西に分裂したが、東ドイツは「戦勝国」なんです。東ドイツはナチスと闘い続けたコミュニストが戦争に勝利して建国された国になっている。東ドイツ国民はナチスの戦争犯罪に何の責任も感じていない。自分たちこそナチスの敵対者となっていたのだから、ナチスの戦争犯罪について他国民に謝罪する義務はないと。東西ドイツが1990年合併されたが、二つの相容れない戦争経験総括を一つにまとめた「和解モデル」の存在を寡聞にして聞いていない。ヴァイツゼッカ―元大統領の演説がよく引き合いに出されるが、彼は5月8日、ドイツが無条件降伏をした日を「ドイツ国民解放の日」と言っている。悪いのはあくまでナチスとその軍事組織や官僚組織であって、ドイツ国民はその犠牲者だという立場は譲らなかった。日本人で「8月15日を解放の日」と言う人はいるんでしょうか。
 ◎アメリカ―なぜアメリカという国は強いのか。超覇権国家となりえたのは「文化的復元力」に恵まれているからだろう。カウンターカルチャーの手柄です。ベトナム戦争の時、アメリカでは若者たちが反戦闘争を繰り広げ、警察官に殴られていた。アメリカという国は、国内にそのつど政権に抗う「反米勢力」を抱えている。ホワイトハウスの権力的な政治に対する異議申し立て、ウォール街の強欲資本主義に対する怒りを最も果敢にかつカラフルに表明しているのは、アメリカ人自身だ。この人たちがアメリカにおけるカウンターカルチャ―の担い手だ。ベトナム戦争が終わると、「地獄の黙示録」、「タクシ―ドライバー」、「ローリング・サンダ―」、「ランボ―」という映画がつくられ、アメリカ人はこれを受け入れた。アメリカ映画は「アメリカの権力者たちがいかに邪悪な存在でありうるか」を、物語を通じて、繰り返し、繰り返し国民に向けてアナウンスし続けている。世界広しと言えども、こんなことができる国はアメリカだけだ。