現代損保考

真山 民


 16.4 %の自賠責保険料の引き下げは、過去の取りすぎ反映
                        依然としてブラックボックスの「社費率」
           

           


 自賠責保険料が4月から、3年ぶりに下がる。損害保険料率算出機構が届け出た基準保険料の平均16.4%の引き下げを金融庁が了承した。交通事故の減少(*1)等により、損害率については92%程度と、前回の基準料率改定時の想定以上の黒字となっており、かつ保険契約者への還元に活用される滞留資金の残高も増加傾向にあるというから、下げて当然である。
 

 自賠責保険の基準料率は、①保険金の支払いに充てられる純保険料率(ひき逃げ事故や無保険車による事故の被害者を救済する政府保障事業からの支払いに充当する純賦課金率を含む)、②損保の契約処理や損害調査などに充てられる社費率(政府保障事業にかかる諸費用である付加賦課金率を含む)、③代理店手数料、で構成されており、②と③の合計が付加保険料率となる。交通事故件数が減れば、当然保険金は減少し損害率が改善する(=純保険料の取りすぎ)。また損害調査費用も減り、さらに日常の事務にかかる経費も損保各社の合理化などによって少なくなっているはずで、それらのことは社費の取りすぎにつながる。
 

 周知のように、自賠責保険は人身事故での被害者救済のためという、もっとも公共性の強い保険である。だから国は自動車の保有者に自賠責保険を義務付け、そのことから強制保険とも呼ばれ、損保は純保険料の総額を保険金の総額と等しくなるよう、収支相等原則のもとに設定しなければならない。今回の16.4%という基準料率の大幅な引き下げは、損保が3年間いかに保険料を取りすぎていたかを示すものだ。

 さらに、運用益が増加したことも保険料引き下げの理由に挙げている。損保各社が回収した自賠責保険料は、共同プールとして一つの口座に集められ、配分率に応じて各社に分配されるが、保険料を受け取って保険金を支払うまでには、かなりの時間差があることから、損保はそれを運用して利益を出している。その運用残高の増加が保険料引き下げの理由になっている、そのこともまた、自賠責保険料は高すぎるということを示している。
 

 社費率も問題である。いったい、各社の自賠責の社費率はどのくらいになるのか、2017年度の『損害保険統計号』の自賠責保険の「保険引き受けにかかる営業費および一般管理費」をみれば、東海日動は352億円、損保ジャパンは432億円、三井住友は218億円、あいおいニッセイ同和は275億円も計上しているが、実際、そんなにかかっているのか。もともと社費率算出の過程はブラックボックスであった。損保各社が社費率をかなり高く設定していたという疑惑は従来から指摘されてきたことである。
 

 自動車産業が100年に一度という大変革を迎え、技術が日々進歩し、自動車の安全装置(*2)の装着率も年々大きく高まっており、そのことが事故件数の減少につながっている。損保各社と料率算定機構は、それを踏まえ、自賠責の強制保険という、いわば第二の社会保険料が国民の大きな負担にならないよう、保険料を適切に設定し、かつ収支の状況もオープンにしなければならない。

 ここまで書いたら、自賠責の保険金が4月から、10年ぶりに増額されるというニュースが飛び込んできた。増額の理由は民法の改正である。事故による損害を計算する際に使う法定利率が年5%から同3%に引き下げられ、加えて平均余命や賃金・物価水準の変動も反映して金額を見直されることになった、と言っても、具体的にどういうことなのか、損保の社員や代理店など関係者以外、理解しにくいだろう。
 まして、相次ぐ自動車保険(任意保険)の保険料の値上げも、民法改正が理由となっているとなると、消費者は「どうして?」と思うだろう。それについては、次号でお伝えすることにする。

 
*1 昨年の交通事故による24時間以内の死者数は3215人で、警察庁が昭和23年(1948年)に統計を開始して以降、最小の交通事故死者数で、3年連続で最小の更新。なお、平成元年(1989年)の死者数は1万1086人となっており、平成の30年間で71%減少した。
*2 衝突被害軽減ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制装置、車線逸脱警報装置を指す。