損保経営者は薦めそうもない本


『世界』3月号 岩波書店  横山隆美「石炭火力と損害保険」

 

       

                岡本 敏則

 


 昨年12月COP25(Conference of Parties 25 )がマドリッドで開催されたが、今地球は待ったなしの状態だ。

 オーストラリアの大規模森林火災、欧州アルプスの氷河の消滅、シベリアの永久凍土の溶解、そして日本の毎年の台風等による大災害、それは地球温暖化によるものと言われている。その一番の元凶はCO、その最大の排出は石炭火力発電。世界は廃止に向かっているが、日本は新たに発電所を建設し、海外に輸出している。
 

 『世界』3月号は、脱石炭の特集を組み、横山隆美氏が寄稿している。今回は氏の論文を取り上げる。

 まず氏の略歴から。1952年生まれ、東大経済学部を卒業後AIUに入社、その後アメリカンホーム保険社長、富士火災社長を歴任し、2013年には日本損害保険協会副会長に就任している。そして2019年5月から国際環境NGO350.org日本代表を務めている。
 

 「私は2017年末に米保険グループAIG傘下の損害保険会社を退職。会社に在任中も環境問題に懸念を持ち、退職前の数年間は、地球温暖化にともない自然災害の将来予測が立てにくいことから、様々な対策を講じていたNGOの活動に参加して、損害保険会社が温暖化対策に大きな責任を果たす時代に入ったのではないかと痛感している」
 

 「スイス再保険会社のレポートでは、自然災害による保険金支払い額が増加傾向にあることが報告されている。2018年の被害額は760億米ドル(8兆2860億円)と推定される。連続した2年間の累積被害額でみると、2017年と2018年が2190億米ドル(23兆6520億円)で史上最大となっている。日本も自然災害による損保各社の支払保険金額は、西日本豪雨があった2018年は全社合計で1兆5000億円、昨年度も台風15号19号の影響で1兆円規模になると予想されている」
 

 「こうした状態が深刻になると、保険会社はリスクの選別による引き受けを強化する可能性がある。洪水が起こりやすい地域で、十分な対策を講じていない建物や工場には保険を提供しないか、リスクに見合った保険料として極めて高額の保険料を提示すれば、顧客の負担能力を超えてしまい実際に保険手当てができないことにもなる。損保会社は、自分たちの経営を悪化させないために、また国民経済の円滑な運営に貢献し続けるためにも、社会的リスク管理に携わる業種として、温暖化問題の解決に積極的に対策を講じる必要と責任がある。保険会社による温暖化緩和策としてはやや過激に響くかもしれないが、温室効果ガスを大量に排出する企業や設備の保険を引き受けないという方針を、国外の保険会社はすでに採用している。昨年12月にJACSES(特定非営利活動法人「環境・持続社会」研究センター)が発表した、世界の大手保険会社30社の「石炭事業への引き受け方針等に関する世界の大手保険会社ランキング」によると、世界の17の保険・再保険会社が石炭事業への保険引き受けの停止あるいは制限をしている。我が国の東京海上日動、損保ジャパン、三井住友海上の3社は、ランキングで他の8社と共に最下位を分けた。お世辞にも温暖化対策に積極的とは言えず、損保会社として、持続的な地球環境に対する責任を果たしていると胸を張れる状況ではない」。
 

 氏はナオミ・クライン『これがすべてを変える―資本主義VS気候変動』(岩波書店)に大いに影響されたという。クライン氏は、もう手遅れと言っているが。