現代損保考

真山 民


      税制の裏かくMS&ADの「節税」           

           

        三井住友海上本社ビル(駿河台) 撮影 k・ikeda


 先月号で、MS&ADインシュアランスグループ(MS&AD)の英国子会社であるMS・Amlinの事業不振に伴うのれん代減損計上について述べた。のれん代等の減損で1,754億円の損失を計上する一方、MS・Amlin傘下の3子会社─欧州元受事業、ロイズ事業、再保険事業─の株式を三井住友海上に現物配当し、その際発生する損金にともなう税金の減少で1,705億円のプラスが生じ、MS&ADの差引の損失は49憶円で済むというものだ。改めて日本の税制は大企業と大金持ちに甘いと言わざるを得ない。

 

 ところが、昨年12月27日の朝日新聞に「財務省がソフトバンクGの節税策に歯止め 親子間の株受け渡しで赤字計上、納税額わずか500万円」という記事が掲載された。ソフトバンクがMS&ADと同じ手口で、それをはるかに上回る減税を手にしているという内容である。ソフトバンクグループ(SBG)の節税の手口は、以下のとおりだ。
 

 節税策の「てこ」のように使われた会社は、SBGが16年に3兆円超で買収した英半導体設計大手アーム。アームは、持ち株会社アーム・ホールディングス(AHD)の傘下に事業会社のアーム・リミテッド(AL)がぶら下がる。SBGが親、AHDが子、ALが孫、という関係だ。
 SBGの18年3月期決算で、AHDに1兆円超の含み損が出た。事業が失敗したわけではなく、親子間で株を受け渡すことで「つくり出された」評価損である。SBGは、AHDが持っていたAL株の大半を「現物配当」としてほぼ非課税でもらい受けた。日本の税制では、一定の条件で外国子会社から受けた配当に税金を課さないルールがある。
 一方、「虎の子」のAL株を放出したAHDだけをみれば企業価値は1兆円超も減ったことになる(図1=朝日新聞から)。

 ただ、これだけでは税務会計上の赤字にはならない。そこで登場するのが孫氏肝いりの投資ファンド、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)だ。SBGはSVFに、AHD株を「現物出資」として移した。AHD株の実際の価値(時価)は一連の操作で大きく下がり、SBGがAHDを買収したときの株の価値(簿価)より安く手放したとみなされ、簿価と時価の差額が「赤字」に計上された(図2=同上)。 

 こうしてSBGはグループ内の株式の移動で、「評価の下がったAHD株を手放して大赤字が出た」と申告し、納税額を減らした。赤字は次の19年3月期にも繰り越され、2期続けて納税を少額で済ませた。
 MS&AD、MS・Amlin、その3子会社(MS&ADからみれば孫会社)の関係は、SBG、AHD、AL3社間の関係に該当するし、MS・Amlinの事業不振によって、3子会社の株式を三井住友海上に現物配当し、それで発生する損金にともない減税を計上する手段も、SBGのそれと酷似している。
 MS&ADやSBGの手口は、企業グループを巧妙に駆使した租税回避行為、言ってみれば脱税である。巧妙にして、露骨な租税回避に税務当局も見過ごすわけにはいかなくなったのか、来年度の税制改正大綱に、企業の過度な節税対策に歯止めをかける措置が盛り込まれた。当然である。ついでに、富裕層の富の源泉である株高と配当金に課せられる一律20%という税率も引き上げるべきだ。