損保経営者は薦めそうもない本


   『明治維新150年を考える』(集英社新書)

                

       

                岡本 敏則

 


 第6章 石川健治(東大法学部教授 立憲デモクラシーの会呼びかけ人)「国民主権と天皇制」

 

  天皇の退位、即位があり、20日から始まった通常国会では「改憲」が最大の焦点となるであろう、という訳で、石川健治氏の章に焦点を当てた。

 戦後の憲法学者(東大系)の学問的系譜を見て行こう。まず戦前に遡る。「天皇機関説」の美濃部達吉門下、宮沢俊義・清宮四郎・尾高朝雄。戦後、宮沢門下、奥平康弘・芦部信喜。清宮門下、樋口陽一。樋口門下、石川健治。美濃部―清宮―樋口―石川となる。木村草太氏は、美濃部―宮沢―芦部―高橋和之―木村となる。◎「天皇機関説」―「国家法人説。戦前の天皇は『統治権の総攬者』であり、天皇の意志が最終的な国家の意志とみなされる。これを法人説の枠組みで説明した場合、『最高機関』が天皇であることは疑いようがない。天皇主権説との対比において『天皇機関説』と呼ばれた。」

 

◎「日本国憲法」における天皇―「天皇機関説の枠組みは日本国憲法に対しても応用可能です。戦後日本の『最高機関』は『国民』―正確には『国家機関としての有権者団』―です。憲法41条では『国会』こそが『国家の最高機関』だとされていますが、これは国会中心主義に対する『政治的美称』に過ぎないと考えるのが通説です。憲法99条を見ると、天皇が一個の公職として捉えられていることがわかります。天皇は、最高機関の地位から降りてしまったとはいえ、依然として国家機関であるわけです。いわば戦後版の『天皇=機関』説が成立します。宮沢俊義がこれを唱えました。国事行為を行う国家機関としての『象徴』職が天皇です。日本国憲法は国事行為を行う機関の地位(「皇位」)については『世襲制』を採用しました。『象徴』職という特殊な役柄を遂行するためには、日本一の名家である天皇家においてのみ憲法2条は『皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する』と定めます。

 このような『憲法上の』天皇は、いわば国事行為を行う公務員ですので、公務員としての仕事が終われば私人の立場に戻ります。私人としての天皇は基本的に人権を享受でき、信仰の自由も保障されます。『キリスト教信者であっても構わない』(宮沢)。」

 

◎「国体」は変更されたのか―「日本国憲法には上論という部分があり、明治憲法の改正手続き上、ここでの主語は『朕』、天皇になっています。その後に前文が出てきてここでは『日本国民は』が主語になる。この矛盾をどう捉えるか。二つの立場があり、一つは、『朕』が依然として主語であることに着目して、新旧憲法の連続性を強調する立場です。欽定憲法だから日本国憲法体制に服従するという理屈です。他方で、新旧憲法の断絶性をそこに発見して、新しく生まれ変わった『日本国民』を主語とする憲法だからそれに従いたい、という人々もいます。ポツダム宣言を受託したことにより連続性は切断されたと認識します(宮沢)。」

 

◎尾高・清宮説―「日本人がよほどの軽薄な国民でないかぎり、国民精神の底流に、二千年来の伝統と考えられている国家組織の根本性格をここで全く変えてしまうことに対する、無言の反発が潜んでいることも、十分考慮しておかなければならない―天皇の地位を認めながら自由意志はあってしかるべき―政治的には『中道の天皇論』であった。」