現代損保考

真山 民


        三井住友の失敗と利益増の怪           

           

        三井住友海上本社ビル(駿河台) 撮影 k・ikeda


 M&Aの失敗例

 M&A総合研究所(※)のホームページを見ると、日本の大企業によるM&Aの失敗例が25件挙げられている。いずれも数千億円をつぎ込みながら数百億から数千億円の損失を招いたケースである。

 たとえば、東芝は買収した米原発大手ウェスティングハウスの破産で東証2部に降格、パナソニックは三洋電機の買収で6,000億円以上の評価損を出し、NTTコミュニケーションズは米インターネットサービスプロバイダーのベリオを買収したものの、1年後に5,000億円もの損失計上を余儀なくされた。


 三井住友の失敗
 今のところ、25件の事例のなかに損保はない。しかし挙げられてもおかしくない事例がある。MS&AD(以下MSと略)による英大手再保険会社アムリンの買収だ。三井住友海上が16年に6,400憶円もの巨費を投じたが、欧州での元受やロイズ事業の不振によって、18年度まで赤字が続いている。そのため、三井住友海上は今年度の上半期決算で、のれん代などの減損処理として1,754億円の損失を計上せざる得なくなった。のれん代は「被買収企業の公正純資産額と買収価格の差額」を指すが、わかりやすく言えば「それだけ買い手側が高値づかみをした」ということを意味する。


 それでも利益は増額
 しかし、MSはこの失敗を決算上はうまく糊塗することに成功している。それには2つの理由がある。
 1つは、アムリン傘下のロイズ、欧州元受、再保険の三つの事業を手がける子会社(三井住友海上から見れば孫会社)の株式を三井住友海上に現物配当し、直接出資の形をとることによって税務上の損失(みなし譲渡損失)が1,705億円発生するが、これに伴う税金費用の減少がのれん代などの減損を相殺することになり、結果としてMS全体の純利益の目減りをカバーしたことだ。
 2つは、アムリン傘下の3子会社株式の異動と再評価にともなう、500億円程度の準備金の取り崩しである。それが特別利益としてMSの最終利益(純利益)を押し上げることになった。
 事実、MSの19年度通期業績の見通しを見ると、純利益は2,000億円で対前年比+3%、配当など株主還元の原資である修正利益は2,200億円で+15.9%と大幅な増額を見込んでいる。ちなみに東京海上HDは、純利益に3,250億円(+18.3%)。修正利益は3,050億円(+8.5%)、SOMPOHDはそれぞれ8億円(▲19.5%)、1,280億円(+12.7%)を見込んでいる。


 今後再保険料が利益を圧迫?
 昨年の「世界の異常気象災害による最大の損害国は日本」(ドイツのシンクタンク・ジャーマンウオッチの報告書)という状況に続き、19年も15号、19号台風等で、多額の保険金支払いを迫られたにもかかわらず、これだけ利益を計上できるのは、異常危険準備金の取り崩しに依存したからだ。しかし、異常危険準備金が減少すればするほど、保険金支払いに備えて再保険への出再を免れない。しかも世界中で異常災害が続発していることから再保険料も上昇、「100億円のリスクに20~30億円のコストがかかっている」というから、今後出再の割合を増やせばさらに収益を圧迫することになる。


 リスキーな投機性傾斜
 異常気象災害に備えて支払い保険金に充当するカネを備蓄する手段としては、あとボンド〈債券〉がある。近年、損保が発行するボンド・保険リンク債の発行が増えているが、これは契約期間中に大規模災害が起きなければ、元本とともに相対的に高い利回りが支払われる一方、それが発生すれば、元本が保険金に充てられ、元本が毀損するリスクのある商品だ。このような商品に依存すること自体、保険産業が投機性を帯びていることをあらわす、危険な兆候である。

 

 ※国内外のM&Aの仲介やプラットフォーム(物事を行う上で基礎となる部分。コンピューター上では、ソフトが動作するための基盤のこと)事業を手がけている。