安倍政権「歴代最長」「1強」というけれど…


           杉田敦法政大学教授に聞く


   

  ●悪質なフェイク政治まん延

 

 ――安倍政権をどう見ていますか。一番の問題点はなんでしょう?

 

(杉田)うそつきだし、官僚や民間業者にもうそをつかせている点です。モリカケ疑惑も、今度の「桜を見る会」も同じ。不祥事を認めず、権力を使ってうそをつかせる「フェイク政治」がまん延しています。過去の自民党政権と比べても、かなり悪質でしょう。これは政策の良し悪しを議論する以前の問題です。政策の効果を判断するにも、肝心の事実や統計などがあいまいでは、まともな批判はできません。

 日本社会は、いろいろあっても正直さが売り物だったはずです。財布を落としても戻ってくるし、お店の会計でも釣り銭を決してごまかさないことなどです。そういう社会を安倍政権が壊しつつあります。こんな政権が長く続いているのは、暴走へのブレーキが利かなくなっているためです。政治改革で首相の権限を強めた結果、自民党内も官僚もメディアも萎縮し、劣化しました。残念ながら野党は力不足です。

  

  ●政権が内在化する弱点  

 

 ――「1強」といわれる安倍政権に弱点はあるのでしょうか?

 

 (杉田)安倍首相に権力が集中し過ぎた結果、不平・不満などのリアクションが起きる可能性はあります。自民党内や官僚への過度な圧力がしっぺ返しを招くかもしれません。安倍首相らには選挙で勝てば何をしてもいいんだという「勝者総取り」の考えがあるのでしょうが、これは間違いですし、どこかでひずみが生じてきます。

 成果を出せない経済政策の影響も小さくない。特に消費増税が今後、深刻な景気悪化をもたらすのは確実で、倒産件数が増え、経済指標も悪化していく中でアベノミクスへの批判が高まります。株価が下がれば、それで恩恵を受けていた人々が安倍政権を支える理由は、もうありません。

 改憲へのこだわりも弱点だといえます。公明党は安倍9条改憲には慎重な姿勢です。公明党を切り捨てれば、自民党は選挙に勝てない。少なくない自民党議員に公明党・創価学会票が入っているのです。公明党と離縁すれば改憲発議に必要な3分の2の議席確保は難しくなります。改憲にこだわり続ける限り、この矛盾は消えません。  

 

  ●真面目な議論こそ必要

 

   ――政権交代には何が必要ですか? 

 

 (杉田)政権を維持したい人々は、偽の標的を国民に示してバッシングする手法を取ります。外国では「雇用を奪う移民」を敵視し、日本でも韓国などをたたく風潮が続いています。でもそれが本当の敵なのかどうか、冷静に見極める必要があります。

 いま、考えるべきなのは生活にかかわる問題でしょう。雇用、賃金、年金などがどうあるべきかは、誰もが関心を持たざるを得ないテーマです。こうした課題について、真面目な議論をどれだけできるかが問われています。

 

 すぎた・あつし 1959年生まれ、1996年から法政大学法学部教授(政治理論)。日本政治学会理事長など歴任。「憲法と民主主義を学びなおす」など著書多数。