斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」


 

 

        国と吉本興業が「死に方」啓発?

 厚生労働省が製作した「人生会議」の啓発ポスターが批判を集め、先月下旬に予定されていた地方自治体への発送と、ホームページへのPR動画の掲載が見送られた。

 お笑い芸人の小藪千豊(こやぶかずとよ)さんが延命治療を受けている病床で、〈まてまてまて/俺の人生これで終わり?/大事なこと何にも伝えてこなかったわ〉などと無念がり、きちんと話しておきましょうというメッセージになっている体裁なのだが――。 

 人の死を面白がっているように見えてしまう。「これでは『死に方会議』ではないか」との声まで寄せられたとか。 

 

 「人生会議」とは、政府が進めているACP(Advanced Care Planning)の取り組みに与えられた愛称だ。人が判断能力を失った際に受ける医療行為に対する意向をあらかじめ示しておく「事前指示書」だけではうまく機能していない現状を、医療者らのチームが補完しようとするもの。 小藪さんは愛称選定委員会の委員だった。彼が所属する吉本興業はここ数年、政府との関係を緊密化させていることで知られるが、課題のポスターもその一例だったということか。 厚労省は今後、患者団体に意見を聴いて、対応を決めるという。ただ、ポスターや動画が日の目を見なくなったとしても、不安は残る。 前回の本欄を思い出してほしい。社会保障の「充実」を謳って消費税増税を繰り返している政府は、大義名分とは裏腹に社会保障費の削減に躍起で、そのためには「尊厳死」の美名を騙りつつ、病院の早期往生を促進していく構えだとの旨を書いた。糖尿病もがんも認知症も「自己責任」だと決めつけて済ませたい支配層の、狂った思想が根底にある、という示唆も。

 

 どだい、人間の生き方や死に方に政府が口を出そうとすること自体がおこがましい。私たちは今回の問題から、彼らの国民に対する眼差しを読み取っておくべきだろう。