損保経営者は薦めそうもない本


山口二郎『戦後民主主義は終わるのか』瀬戸際に立つ日本

(岩波新書)

                

       

                岡本 敏則

 


 日本全体が壊れている。市民連合代表も務める山口氏はときには挫けそうになるが、何とかこの国をまともな国にしようと東奔西走している。本書は現在の「日本」という国の分析と、その立て直しを私たちに提案し、奮起を求めている。容易じゃないが頑張らねば。
 安倍晋三という人物。「自分の考えに異様なほど執着する人物が権力者となり、自己を客観視することなしに好き放題をすることである。人間は誰しも子供のころから自己愛を持っている。ただし成長の過程で親や教師から注意されるなどして、自分の欠点を認識し、自己を相対的にとらえる能力を身に着けるものである。このような能力に欠けた人物が権力者になると、異なった意見による討論、対話を認めない。自己愛過剰な政治家は自分の主観を絶対化し、他人に押し付ける。第二の特徴は、その裏返しとして、他者からの批判を聞こうとせず、批判するものを逆恨みし、これを殲滅すべき『敵』ととらえて徹底的に叩き潰そうとすることである。自己愛過剰な政治家はしばしば批判的なメディアと知識人を攻撃する」。
 野党の立ち位置。「安倍首相は、戦後体制からの脱却を施行し、彼が考える『伝統』を保守したいと思っている。これに対して、野党は戦後民主主義を保守するという旗印を明確にすべきである。ここでいう戦後民主主義とは、特に1960年代以降自民党と野党の相互作用の結果定着した路線である。第一に、日米安保を基調としつつ、憲法の枠内での適度な自衛力を持ち、アジア諸国との友好関係を保持する。第二に、市場経済を基調としつつ、ある程度の公平な分配を保持する。このような路線を掲げる勢力が、現在の自民党に対抗することで、政治の選択肢が生まれる。かつて自民党内で起こった権力交代を政党間で起こす」。
 世界を席捲しているポピュリズムについて。「右派ポピュリズムは、移民や少数民族を社会から排除することや伝統的な道徳から逸脱する少数派の権利を否定することを正義として打ち出している。英国の政治学者J・ストーカーは『自分たちがほとんど関わらなくても奇跡を起こしてくれるという一方的な信仰の上に成り立っている』と述べている。政治はあくまで興奮をそそる見世物であり、自分たちの満足をもたらしてくれればそれでよしというのが、ポピュリズムを支える庶民感情である」。
 野党に求めるもの。「立憲民主党や共産党が政治家の質を変えていくことができれば、野党への期待が高まるであろう。1993年の細川政権に社会党が参加したときのような柔軟な政策転換を共産党が打ち出すことが出来れば、連立政権の可能性は高まると思われる。今ある自衛隊や安保体制を承認し、憲法の理念に近づけるために改革を行うという姿勢である」。
 最後に私たちに向けて。「自由や民主主義の可能性をあきらめることは、そのあきらめ自体が自由や民主主義の衰弱を招き寄せる。マーティン・ルーサー・キングやネルソン・マンデルの苦闘を思えば、現在の民主主義国の市民が絶望を語るのは贅沢というものである」。