当世損害調査事情

      再就職でダウンした賃金を保証してほしい


 交通事故被害者の「休業補償」にまつわるトラブルである。事故状況やケガの態様などは省くが、示談でネックになっていたのは、休損だけであった。
 被害者は事故で受けたケガの治療中、勤務先を解雇されたが、すぐさま別会社へ再就職をしている。ところが、被害者は「新しい勤務先の賃金は、前の勤務先に比べて7割程度。この差額を休損でカバーしてほしい」というのである。さらに「前の会社を解雇されたのは、事故による長期欠勤が理由。経営者の横暴だ」とも。
 

 事故は業務上ではなく、休日の出来事である。しかし、治療中の労働者を解雇するというのは、たしかに行き過ぎだとは思う。が、再就職した以上、いくら賃金が下がったとしても、もはや「休業」扱いとするわけにはいかない。気持ちはわかるが、賃金の差額を保険金の支払い対象とするのは、到底無理筋というもの。

 そう伝えると、被害者は「保険会社も、経営者とグルなのか」という。
 こう言われるのが一番つらい。たしかに、昨今の「不当解雇保険(経営者が不当に解雇した場合でも、会社に対して争議費用を保険でカバーする)や同様のセクハラ・パワハラ保険にもみられるように、保険会社は弱者より強者の味方みたいにもみえるところもある。
 

 だが、この場合はそれとは趣を異にする。休業中の社員を解雇したり、労働条件のより低い企業に追いやったりするのは、経営者の無法であり、人権侵害だ。
だが、それをカバーするのは保険ではない。それは労働者のたたかいで解決する以外にないではないか。

 

 目の前の、なにか「当面の金になりそうな」相手や担当者に不満の矛先を向けて小利を貪ろうとするより、巨悪に対して異議を唱え、仲間を募って抵抗してほしい。そういう闘いなら、私も喜んで支援する。