みんなで歌おうよ 「Imagine 」


守屋真実

もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 


 今年もあと一か月で終わりだ。私にとって体調最悪の一年だったので、こんな年は早く終わってほしいと思う。
 体調不良の原因は自律神経失調症、つまりストレスである。私は何事も全力投球しないと気が済まない性質なので、時には本当に寝食を忘れる。

 普通なら肩こりや偏頭痛といった警告信号が現われるので息抜きせざるを得なくなるのだが、今回は警報が出ず、あるいは警報に気が付かず、自分でもおかしいと思い始めた時にはもう、眠ることも食べることもできなくなっており、2ヶ月で5kg以上も痩せていた。それでも仕事には普通に行っていたし、政府の不正や閣僚の暴言を聞けば、家でじっとしてはいられない。だから、はた目にはいつもと変わらないように見えていたかもしれない。

 この間にも複数の人から「いつも元気ねー」などと言われた。中には「スマートになったわね」などと褒める人までいた。ことの深刻さに気付いていたのは、同居している母だけだったと思う。小鳥がさえずり始めるころになってようやくウトウトしながら、「あー、やっと眠れる。このまま目が覚めなければいいな」と思ったことさえあった。決して死にたいわけではなく、ただ生きているのが物理的に辛かったのだ。要するにブレーキが壊れた自動車のようなもので、ガス欠になるか、どこかに衝突するまで、自分では止まれなくなってしまうのだ。現在は、交感神経を緩める鍼治療でかなり回復したが、人はこうやって過労死してしまうのかもしれないと思った。
 別に同情して欲しくてこれを書いているのではない。ただ、もし読者の周りにそういう人がいたら、早期に気付いてあげて欲しい、何らかの援助をしてあげて欲しいと思う。
 この経験で考えたことの一つ目。ドイツで働いていた時には、いつも周りに世話焼きタイプの人がいて、体調不良でも悩み事でも、誰かが気付いて援助してくれた。時には要らぬお節介もあったけれど、そういう時には感謝しつつ断れば良い。右肩の鍵盤断裂で八か月休職した時、父が要介護になって急遽帰国することにした時、たくさんの友人が自分から援助を申し出てくれた。助けてもらったからといって負い目に感じる必要はないし、仰々しいお礼をする必要もない。借りは、いつか返せばよい。そういう人間関係が日本では(あるいは東京では)希薄だと感じる。
 二つ目は、そもそも、いつも元気な人間などいないし、健康な人間なら短期間に急激に痩せたりしないのに、周りの人が異常に気付かないのは、日本人によくある正常性バイアスのためではないかと思う。
 正常性バイアスとは、心に負担がかかりすぎないように、いやなことは見ない、不快なことは考えない、自分だけは大丈夫と根拠なく思い込む思考の傾向である。また、今の状態が永久に続くかのように思っていることもそうだ。災害の時などには、危険を過小評価してしまう原因になる。緊急事態ばかりでなく、人の病気や老い、死などの不快なことからも目をそらす傾向が日本人は強い。戦争法が強行採決されても、共謀罪法ができても、政府が兵器の爆買いをしても、自衛隊の海外派遣が計画されていても、まだ平和だと思い込んでいるのも同じことだ。
 不快なことを考えるのは、誰にとっても楽しいことではないけれど、それならば、せめて明るく暮らしやすい社会を想像してみよう。労働時間が短かったら、給料が多かったら、社会保障が充実していたら、環境破壊がなかったら、みんなが助け合う社会だったら…。今より良い社会を夢見ることは容易だろう。


  Imagine all the people
  Living life in peace

 

 夢はかなえるためにある。
 新年にたくさんの夢が実現しますように。


 Imagine : John Lennon