真山  民「現代損保考」


 「競争と格差助長」叫ぶ櫻田謙吾SOMPOホールディングス社長が「成長戦略会議」メンバーに

                              


 菅新政権への経済同友会代表幹事の注文

 

 菅政権が出発した2日後の10月16日、首相官邸で開催された成長戦略会議の初会合、そこには櫻田謙吾SOMPOホールディングス社長の顔も見えた。

 櫻田氏は経済同友会の代表幹事であり、9月16日には「菅新内閣の発足にあたって」と題し、「コロナ危機を“奇貨”として、今こそ官民ともに危機感を持ち“新しい普通”(ニューノマル)の実現を目指す必要がある」として、菅政権に次の3点について注力するよう要望している。

 

 

 ①喫緊の課題である社会全体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組むこと。

 ②これからの財政構造や真の「全世代型社会保障」を実現する受益と負担のあり方について、長期的な展望を持ち、抜本的改革に着手すること。

 ③米中対立の激化・長期化、先進技術がけん引する経済・産業の変革など、不透明性の高い国際環境の変化を見通し、わが国の存続と世界への貢献に向けた戦略を示すこと。

 

 経済財政諮問会議と成長戦略会議

 

 櫻田氏がメンバーとなった成長戦略会議は、「経済財政諮問会議が示す経済財政と改革の基本方針の下、わが国経済の持続的な成長に向け、成長戦略の具体化を推進する」機関である。その上に位置し、有識者の意見を反映させながら、経済財政政策に関する事項を調査審議する機関として経済財政諮問会議がある。二つの機関の関係を、成長戦略会議のメンバーである竹中平蔵東洋大学教授・パソナグループ取締役会長は、諮問会議を司令塔、戦略会議をその下部機関と位置づけ、こう話す。

 「首相がど真ん中の司令塔と位置づけるのが経済財政諮問会議。成長戦略会議はその補完として2つの意味がある。第1に諮問会議が示す改革の具体化、第2に諮問会議に欠けている部分に注文をつけることだ」(日経電子版10月27日)

 

 メンバーには閣僚、大企業経営者、新自由主義者がずらり

 

 両機関のメンバーには閣僚、大企業の経営者、新自由主義らがずらりと並ぶ。

        【経済財政諮問会議】

 首相、経財相、総務相、財務相、経産相、官房長官、日銀総裁、竹中俊平(慶大教授)、中西宏明(経団連会長)、新浪剛史(サントリーホールディングス社長)、細川範之(東大教授)

        【成長戦略会議】

 官房長官、経財相、経産相、金丸恭文(フユ―チャー会長)、国部毅(三井住友フィナンシャルG会長)、櫻田謙悟(SOMPOホールディングス社長)、竹中平蔵(東洋大教授)、デービット・アトキンソン(小西美術工芸社長)、南場智子(ディー・エヌ・エー会長)、三浦瑠麗(ヤマネコ総合研究所代表)、三村明夫(日本商工会議所会頭)

 

 そもそも諮問機関とは、「行政官庁の諮問に応じて、または自発的に、調査審議すべき問題について学識経験者や行政その他の経験者で検討協議し、望ましい内容を公平な立場から答申する機関」(日本国語大辞典)のはずだが、学識や行政などの経験者は大体が政府寄りで、答申も政府の意向に沿った内容が出されることは、ご存じの通りだ。

 その傾向は「成長戦略会議」のメンバーを見れば、はっきりする。

まず竹中平蔵氏、第3次小泉内閣の総務大臣兼郵政民営化担当大臣として民営化推進の全権をゆだねられ、そのプロジェクトを推進した。小泉・竹中改革と言われる雇用の流動化政策は「就職氷河期世代」を生み出し、ワーキングプアと呼ばれる低賃金労働者を大量に作り出す元凶となった。竹中氏はその後、派遣会社大手パソナの会長職に就いているが、政商として政府にかかわり続け、働き方改革についても、「正社員をなくせばよい」「時間内に仕事を終えられない、生産性の低い人に残業代という補助金を出すのはおかしい」と述べ、残業代ゼロ制度(高度プロフェッショナル制度)の導入を強く提言したように、徹底した新自由主義者である。竹中氏が総務相のとき、菅首相が副大臣として仕え、以来両者が刎頸(ふんけい)の交わりにあることは、よく知られている。

 デービッド・アトキンソン氏も同様。「平時に適切な貯金をしてこなかったのだから、有事に国に助けてくれ、というのは本来都合の良い理屈。人口減少時代、財政問題を冷静に考えた上で、産業構造を見直す必要がある」と、中小企業の淘汰を主張する。

 金丸恭文氏は、首相の諮問機関である規制改革会議の委員を務め、官房長官だった菅氏の後ろ盾を得て農協改革を主導した。

 南場智子氏は、菅首相の選挙区がある横浜市のプロ野球チーム、横浜DeNAベイスターズのオーナーである。

 

「競争と格差の助長」を唱える櫻田氏と損保ジャパンの新人事制度 

 

 こうした新自由主義者とともに「成長戦略会議」のメンバーに加わった櫻田氏自身も、「消費税増税と社会保障費の削減によって日本人を元気づけることで消費を喚起できる」、「競争や格差が悪であると見なす傾向がジャパンバッシングを招いた。競争によってのみ能力が向上するのだから、競争と格差を助長すべきである」と主張する、負けず劣らずのネオリベラリストだ。

 SOMPOホールディングス傘下の損害保険ジャパンは、10月から、勤続年数に応じて昇給や昇進が決まる年功序列から脱却する新たな人事制度を導入した。これにより、従来40歳前後で昇格する課長職に、制度上は20代でも就けるようになる。櫻田氏言うところの「競争と格差の助長」損保ジャパンバージョンである。菅人脈の一人と目される三木谷浩史氏(楽天会長兼社長)は、竹中氏との対談でこう言っている。

 「一度雇用されれば、正社員というだけでどんなにパフォーマンスが悪くても、怠慢でも,一生賃金が得られる。労働者もプロとして、フェアな競争にさらされるべきだし、年功序列、終身雇用のシステムは抜本的に見直されるべきだと思います」

 これに対し竹中氏はこう答えている。「競争のないところに成長は絶対ありません。もっとも公正であるべき労働市場が、制度的にアンフェアな状況になっているのは由々しき事態です」(『文芸春秋』2013年4月号)

 櫻田謙吾、竹中平蔵、三木谷浩史、3氏の考えは、ぴったり重なり合う。揃いも揃って、こんな手合いばかりの成長戦略会議の下で具体化される「デジタル国家」構想や全世代型社会保障改革のスガノミクスがどんな方向に向かうかは明らかだ。