佐藤 啓 著

「無名の開幕投手 高橋ユニオンズエース・滝良彦の軌跡」


                        伴 啓吾


 「損保のなかま」紙に30年にわたって連載された「漫記通知です」は看板記事の一つだった。その執筆者・佐藤啓さんが、このたび「無名の開幕投手 高橋ユニオンズ・エース 滝良彦の軌跡」(四六版並製392ページ、2,400円+税、桜山社)を上梓した。

 

 

 

 「心優しきサイドスロー」と周囲から慕われた滝良彦投手は、戦時下から戦後にかけて貧しく苦しい時代を生き抜いた野球人であり、文化人だ。戦後プロ野球界でわずか3年間だけ存続した高橋ユニオンズのエースとして活躍、3年間で31勝を挙げている。

 その滝良彦投手がプロ野球人としては異色の南山大学出身であり、自身の先輩であることを知った佐藤啓さんが「どうしても書き残しておきたい」という熱意のもとに取り組んだ渾身のノンフィクションである。

 生前の本人や家族、球界関係者、選手などから丹念に聞き取ったいくつもの興味深いエピソード。「穏やかすぎるいい人でした。技巧派投手でセカンドゴロがよく飛んできました」という佐々木信也さんの話もある。そして背景には佐藤さん自らの足で調査した当時の野球界をめぐる興味深いデータが豊かに埋め込まれている。滝投手の軌跡が時代とともに鮮やかによみがえってくる読み物である。

 滝良彦投手が所属する高橋ユニオンズ球団はいわゆるお荷物球団だった。チームの存廃がかかったゲームで重要な役割を果たしたのが相手チーム毎日オリオンズ・橋本力選手(そのミステリアスなゲーム展開は、ぜひ本書で)。橋本力さんは晩年草野球チームでコーチを務めたが、そのシニアチームに選手として在籍していたのが私、という奇縁があった。人は時空を超えて、確かに、どこかで結びあっている。

 

 

 佐藤啓さんは1962年生まれ。千代田火災(現・あいおい損保)を経て、1990年中京テレビ入社。同年6月、巨人・中日戦副音声実況中継でアナウンスデビュー。以後、日テレ系「ズームイン‼朝!」やスポーツ中継などで活躍し、アナウンス部長も務めた。南山大学文学部教育学科卒。