大杉良夫「自動車保険事件簿」

               フォークリフト


 梱包会社を営む契約者から、「うちのフォークリフト車を会社の軒先に駐車させていたところ、はみ出していた一部にバイクで通りかかった女子高校生が接触して怪我を負わせた」と報告が入った。珍しい事故だが、あり得ないことではない。

 もちろん、フォークリフトの駐車方法に違法性があれば、賠償責任は当然負わなければならない。対人賠償保険金額は、まだ「無制限」のない時代のクレームだったが、それでも保険金額はたっぷり付保されていた。

 

 そこで、順序として自賠責保険証明書の提出を求めた。任意保険は自賠責保険の上乗せだから、まずは自賠責保険での請求・支払いが先行する。ところが「えっ、自賠責保険なんてつけてないよ」というではないか。えっ!今度はこちらが驚く番である。

 現在では自賠責保険がついていないケースは考えにくい。車両販売の際、販売業者がユーザーを囲い込んでほぼ自動的に契約を確保できるような仕組みになっているせいもある。しかし、販売と保険は別物だから必ずしも販売と付保のセットが原則というわけではない。従来は、車両販売業者に「自賠責保険は自分自身で保険会社を選んで付けますから」と、ことわるユーザーもいた。とりわけ、保険会社勤務や保険代理店勤務のユーザーなどはそうして勤務会社に忠義を尽くした。しかし、最近では、保険会社の数も少なくなったし、自動車メーカーやディーラー代理店にもすべて乗りあっているから、そんなケースは最初から殆ど起こらない。

 話をフォークリフトに戻そう。自賠責保険がなぜ付保漏れだったかは不明である。しかし、ありそうな話ではある。フォークリフトは車両であることに間違いはないが、その性能や姿かたちから、いわゆる「クルマ」のイメージとはちと違うものがある。そこが盲点となって販売者(仲介者)側の注意が不足していたのかもしれない。しかし、最終責任はあくまでユーザーにあることだけは間違いない。