真山  民「現代損保考」


 東京海上の社内副業

         「やりがいの搾取」につながらないか

                              


 

 ANAと東海日動、同じ「副業」でも・・・・

 

 昨今「副業」について、大企業に様々な動きが見られるようになった。

 一つはANA、同社の来年3月期連結決算の最終利益は、過去最悪の5000億円前後の赤字となる見通しで、それを受けて同社は、グループ全体の社員の1割の3500人の削減、トヨタ自動車など数社への社員の受け入れの要請、基本給の引き下げ・冬の賞与ゼロで年収を平均30%カット、というドラスティックな合理化案を打ち出した。

 さらに社員が他社と雇用契約を結ぶ「副業」を容認することも明らかにしている。

 

 もう一つは東京海上で、日経(9月9日)が「東京海上日動火災保険(以下東海日動)が社内副業を解禁」と報じた「プロジェクトリクエスト制度」(以下PR制度)である。

 ANAは「不況で賃金を下げるが、それは他社で働いて補え」というもの、東海日動は「他の部署のプロジェクトに参画することによって社員の挑戦を支える社内副業」と、同じ「副業」でも社外と社内の違い以上に、大きな違いがある。

 東海日動は「PR制度」の目的について、こう述べている。

 1.顧客ニーズの多様化、テクノロジーの進展、競争の激化等、事業環境の大きな変化の中で、(企業が)顧客に新しい価値を提供し、選ばれ続けるためには社員一人ひとりの働きがいを高めていくことが必要不可欠である。

 2.働きがいを高めていく上では、多様な社員の挑戦を支え、その成長スピードの向上や専門性・スキルの高度化を実現していかなくてはならず、そのため社員の挑戦を支える新たな仕組みを開始する。

 持ってまわった言い方だが、要するに「社員の成長スピードの向上や専門性・スキルの高度化」を実現していくことが「社員のためになり、会社のためにもなる」ということだ。

 損保会社にとって、国内は人口減少により主力の自動車保険や火災保険の伸びが期待できないため、デジタル化の進展に合わせて新しいビジネスモデルを組み立てる発想力が必要となっている。外部からの人材の登用とあわせて社内のリソースを有効活用する。

 

 広がる社内外の「副業」、懸念される「働き過ぎ」

 

 2018年に安倍前政権によって成立した「働き方改革」、長時間労働を野放しにする「高度プロフェッショナル制度」や「裁量労働の拡大」などとともに盛り込まれたのが「柔軟な働き方」の一環としての「副業・兼業の拡大」。ここでいう「兼業・副業」とは、厚労省による『モデル就業規則』でいう「労働者が勤務時間外において、他の会社等の業務に従事すること」を指す。

 しかし最近では、どこの企業も自治体もデジタル人材が不足しているなかで、「社内外」を問わず、「副業人材」を求めるところが増えている。例えば、生活用品メーカーのライオン、新規事業の戦略立案などの人材を募ったところ、5人程度の枠に40歳代を中心に、社内外から1649人もの応募があったという(「朝日」9月21日)。朝日はライオンのほかに、ヤフー、ダイハツ工業、ヤマハ発動機、三菱地所などの例を挙げている。

 東海日動の「PR制度」は、1万5千人の従業員を対象に公募し、2020年度は5つのプロジェクトでまず30人から始める。米アマゾン・ドット・コムなどの巨大IT(情報技術)とのビジネスモデル作りやスマートシティ(本紙11月号で報道)に適した商品・サービスの開発などを担う。  

 21年度は募集を100人以上に増やし、柔軟な発想を広く取り入れる考えという(「日経」9月9日)。

 「副業」という言葉を使ってはいるものの、実態は本来の自分の仕事に加えて、新たなハードな業務が加わるということでもある。公募に応じた社員も「自分でつかんだ仕事という意識」から、従来にまして働くに違いない。当然ながら働き過ぎが懸念される。企業による「やりがいの搾取」である。

 「3年前に副業を解禁したDeNAでは、社員約1600人のうち、エンジニアやクリエーターなど314人が副業に参加している。同社は勤務内容と時間について3か月ごとに報告を義務付け、時間も月35時間に制限している」(「朝日」同号)。東海日動にもこのような管理が欠かせない。前身の東京海上で社員の自殺が続いたのはそう昔のことではないことを、東海日動は思い起こすことが必要ではないか。