真山  民「現代損保考」


 あいおい ニッセイ同和損保が参画する「スマートシティ」開発とは?

                              


                     

 米ベンチャーキャピタルの仲介であいおいニッセイ同和など6社が提携

 

 あいおいニッセイ同和損保が新たなスマートシティー開発で、トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(トヨタ自動車のAIソフトウエア開発の子会社)、出光興産、JR東日本、日本ユニシス、博報堂の国内企業5社とともに世界のスタートアップ(*注1)との提携に動く。

 新型コロナウイルス禍で生まれた新たな働き方や移動手段、通信環境などの分野で技術革新のアイデアを募り、合弁会社の設立やスタートアップへの出資を通じて実用化を目指す。8月26日の日経に載った記事である。

 

 プロジェクトに参画する6社の仲介役となったのは米ベンチャーキャピタルのスクラムベンチャーズで、今後も国内のほか、米欧アジアやイスラエルなど世界のスタートアップ先進国・地域から協業相手を選び、21年6月をめどに新たなサービスの骨格を整えて公表するという。

 

「SmartCityX」構想で担うあいおいニッセイ同和の役割

 

 スマートシティーとは「ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)などの先端技術や、人の流れや消費動向、土地や施設の利用状況といったビッグデータを活用し、エネルギーや交通、行政サービスなどのインフラを効率的に管理運用する都市」の概念である。

 あいおいニッセイ同和損保は「地方公共団体のDX(デジタルトランスフォーメーション(*注2)推進に向けた支援取組の開始~グローバル・オープン・イノベーション・プログラム 『SmartCityX』への参画~」と題して、ホームページで、以下のように説明している。

 ①.「SmartCityX」は、スマートシティを「Society5.0」の実践の場と捉え、各業界をリードするパートナー企業と世界中の最先端のスタートアップ企業とともに、「未来のまち」を共創するグローバル・オープンイノベーション・プログラムである。

 ②.特定のエリアにおける街づくりではなく、多様な地域課題に応じて生活者目線で価値の高い先進サービスおよびアプリケーションの共創に軸足を置き、それらがデータ連携基盤によって連携されることで、生活者にとって利便性の高いスマートシティモデルを目指す。

 

 あいおいニッセイ同和損保は、「SmartCityX」の参画を通じ、どういう役割を担うのかについては、こう述べている。

 ①   地方公共団体主導の実証実験における様々なリスクを総合的にカバーする保険商品の提供(例:自動運転、MaaS*注3、ドローン配送等の実証実験時のリスクを総合的にカバーする保険商品)

 ②    地方公共団体のDXを支える基盤に対するサイバーリスク等への対策検討(例:スマート・スーパーシティ向けサイバーセキュリティ保険の開発検討)

 「Society5.0」とは、2016年1月に政府が策定した「第5期科学技術基本計画」で狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報社会(4.0)に続く新たな社会であり、「わが国が目指すべき未来社会の姿」と提唱された概念である。

 

 住民の利益ばかりでないスーパーシティ構想

 

 ところで、上記の役割②でいうスーパーシティはスマートシティとどう違うのか、「これまでのスマートシティの取り組みは、エネルギー・交通などの個別分野の取り組みや、一時的な最先端技術の実証にとどまっていた」(内閣府の「国家戦略特区」HP)。これに対し、「スーパーシティは、AIなどを活用し、複数の規制を緩和することで、『丸ごと未来都市』を実現」する、具体的には「自動走行車、ドローンによる物流、インターネットを使った遠隔医療や教育、キャッシュレス化、行政サービスの電子化など、複数の新技術を住民サービスに利用する」というものである。そして、スーパーシティ構想を推進する法律である「改正国家戦略特区法」、通称スーパーシティ法が5月27日に参院本会議で可決、成立した。

 スマートシティにしても、スーパーシティにしても政府や大企業の説明を読むと、便利で快適な暮らしを提供してくれる結構づくめの構想のように思える。挙句は片山さつき参院議員のように「『スーパーシティ』になるしか自治体は生き残れない。キャッシュレス決済、自動走行車両の導入、行政手続きのIT化など新しい生活様式をデジタルでつくり上げる取り組みだ」とまで宣う政治家までいる。しかし、この構想は、個人情報の管理(政府が「公共の福祉に資する」と判断すれば、本人の同意がなくとも他の主体に提供できる)、地域内での情報格差、自治体と大企業による住民不在の地域開発、など多くの問題点をはらんでいる。

 「行政のデジタル化は(各省庁の)縦割りが大きな障害になっている。強力に推進する体制づくりが必要だ」、菅自民党新総裁はこう力説し、デジタル庁に司令塔の役割を担わせてマイナンバー制度を軸とする行政のデジタル化を加速させることを明らかにしている。それは菅新総裁の経済政策の指南役の一人であり、自身が「スーパーシティ構想の実現に向けた有識者懇談会」の座長を務める竹中平蔵氏の新自由主義そのものの考えに直結しているし、かつ別の指南役デービッド・アトキンソン氏の「中小企業を整理し、日本の非効率的な産業構造を変革する」という主張、あるいは北尾吉孝氏の「地方経済活性化のために地銀を糾合する」という主張に直結していることを忘れてはならない。

 

 

*注1 スタートアップ 比較的新しいビジネスで急成長し、市場開拓段階にある企業や事業。

*注2  DX(デジタルトランスフォーメーション) ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念。ビジネス用語としては、「企業がテクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」という意味合いで用いられる。

*注3 MaaS(マース) 移動手段のサービス化を意味する「モビリティー・アズ・ア・サービス」の略。移動手段を所有せず、必要なときに使えるカーシェアリングや、鉄道やタクシーなど様々な移動手段をアプリなどで一括して予約・決済できるサービスを指す。