暇工作「課長の一分」

           追い出し「研修」という名のイジメ


 最近、ある学校法人による教師への「パワハラ」がマスコミで取り上げられていた。某テレビ局でコメンテーターを務める長嶋一茂さんが「そんな学校には絶対に子供を通わせたくない」と憤慨するほど、ひどい内容だった。パワハラは「研修」名目で、学校側が狙いを定めた数名の教師たちを集め、そこで外部講師が徹底的に「お前はダメ教師だ」と罵倒し自発的退職を促すという内容だった。リストラと邪悪な排除精神が重ね合わされた許しがたい所業だ。

 ある損保会社でも同じことがあった。「キャリア・アクセル・プログラム」というネーミングの研修制度だ。突然指名された社員数十名が3か月から最長2年間(!)にわたって研修を受けるシステムである。最初の3か月は外部機関による研修。「自己のキャリア棚卸し」、とか「自己分析」「ヒューマンスキル」などのお題目が並ぶが、実態は「はやく自己の能力に見切りをつけて転職しろ」という追い出し研修である。外部機関は、社員に対し、人を人とも思わない罵詈雑言を浴びせかける。知らぬ顔の会社の冷酷・無責任があまりにも汚い。

 そして3か月後。この時点で職場に再配属できるかどうかの判断が下されることになっているが、会社の意図は社員を追い出すことだから、実際に職場に戻れた社員は1割いたかどうか。戻れなかった社員はさらにJMAMチェンジコンサルタント、〇〇雇用創出機構などという再雇用斡旋業へ「出向」させられる。そこでは、自分の再就職先を探すことが仕事になる。会社は、自らは何も手を下さず、リストラ対象社員に自ら再就職先を見つけさせるのだから手間が省ける。居酒屋チェーン店を訪問し雇用を打診した社員もいる。こうして次々と社員が消えていった。

 ところが、研修指名を受けた社員のうち一人だけ、少数派労組に加入し抵抗した社員がいた。彼は仲間の支援のもとで研修機関から職場帰還を果たしたごく少数のうちの一人となった。また、彼のたたかいが「研修」の実態解明のきっかけともなった。少数派労組がビラや新聞で職場に知らせ、団体交渉で中止を迫ったからだ。やがてこの研修制度は消滅する。

 教師に対するパワハラ事件も、立ち上がって裁判に持ち込んだ教師がいたからこそマスコミも注目した。

 「お前はダメ教師だ」「お前はダメ社員だ」と連日罵倒され刷り込まれると自身を見失い、たたかう気力も削がれる。それこそが企業サイドの狙いだからだ。そのなかで抵抗し人権を主張し、社会に訴えた人たちの勇気が気高い。

 「人生に必要なもの、それは少しだけのお金と勇気だ」(チャーリー・チャップリン)