北健一「経済ニュースの裏側」
立ち上がるフリーランス
新型コロナウイルス感染症があぶり出したことの一つは、フリーランス、雇われない働き方の無権利と不安定だった。ところが政府の全世代型社会保障検討会議は、6月25日、「フリーランスは……その適正な拡大が不可欠」とする中間報告をまとめた。
政府はなぜ、そうした働き方を増やそうとするのか。明治大学の山崎憲准教授は、彼らがGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に代表されるプラットフォームビジネスで日本も稼ぎたい、そこで働くフリーランスが必要だというシナリオを描いているとし、「プラットフォームビジネスによる寡占化を防ぎ、従属的契約者の保護を拡大しようとする世界的な潮流のなかで、日本が進むべき道がほんとうに一つしかないのか」と問いかける(『都市問題』8月号)。
同じ課題に「従属的契約者」の実態から迫るのが、脇田滋(龍谷大学名誉教授)編著『ディスガイズド・エンプロイメント』(学習の友社)だ。聞きなれない横文字の意味は「実質は雇用なのに業務委託などと偽ること」で、副題は「名ばかり個人事業主」。本書の圧巻は当事者からの現場報告だ。
ウーバーイーツは、ユニオン結成に対抗するように「傷害見舞金」制度を作ったが、見舞金を申請するとアカウントが停止されるといわれる。丸八真綿販売では社員を「個人請負」に切り替え、売り上げが低い月は働くと「赤字」になる。東電3次下請け・電気メーター交換では、会社が労働委員会命令を守らず、仕事を減らし組合員を干しあげる。スーパーホテルは男女ペアを住み込みの支配人・副支配人にして出産制限さえ課している……。労働法以前の働き方をほうふつとさせる無法に、憤りを禁じ得ない。
同時に希望も描かれる。本書の筆者の多くは、ユニオンに加盟して声を上げた。テレビ局と最低報酬の協約を交わした音楽家ユニオン、雇用化まであと一歩となったヤマハ英語教室講師ユニオンなどのめざましい成果もすでにあり、コロナ下では、彼女、彼らの権利が政策課題にもなった。
脇田氏も強調する働く者の広い団結と労使交渉を通じた規制をどう実現していくか。知恵を出し合い、考えたい。
社会の調和と安泰に必要な五常の徳は、「仁・義・礼・智・信」だと儒教が教えている。なかでも重要なのが「仁」と「義」である。それは人間が守るべき道徳で、礼儀上なすべき努めのことである。日本人が大切にしている基本的な価値観でもある。
10月10日、公明党は政権を離脱した。
公明党は連立維持の条件として「靖国神社参拝」「裏金問題の解明」「企業献金問題」の対応を連立維持の条件としていたが、これらに対して自民党から明確な回答がなかったからだとしているが、自民党は「一方的に告げられた」と言っている。
私は、公明党が連立の条件を出したとき、その条件に一瞬「今さら?」という気がした。連立を組んで26年、その間、それらは何度も問題になったはずである。それを容認(?)してきたのに、なぜ、今になってそれを頑なに主張するのかと思ったのだ。だが、それは、民意に押されているからだと好意的に解釈していた。
自民党の党大会で、高市早苗が総裁になり、麻生太郎が副総裁になった。常識的に考えると、新総裁はいの一番に連立を組んできた公明党に挨拶に出向き、その上で「今後、どうしましょうか?」と相談するのが筋であろう。
だが、そうではなかった。高市と麻生が最初に会ったのが、国民民主党代表の玉木雄一郎だったのだ。当然、政権協力の話をしたのだろう。
「仁」と「義」に続くのが「礼」である。これも日本人の基本的な価値観で、日本人はこれらに欠ける人間を徹底的に嫌う。
自民党は、支えてくれた公明党に「仁義」も「礼節」も示さなかった。公明党からすればそれは侮蔑されたことであり、屈辱と怒りを感じたはずである。私だって相手がそういう人間なら、さっさと見切りをつけて縁を切るはずだ。
1973(昭和48)年『仁義なき戦い』という映画があった。シリーズで5作創られ、1999(平成11)年「日本映画遺産200」にも選ばれている。
ヤクザを主人公にしているが、ヤクザ映画でも任侠映画でもない。義理と人情、恩義と裏切り、愛と憎悪、怨念と殺戮を描いた群衆活劇で、戦後日本の暗黒社会を描いていた。
石破首相の退陣から総裁選、新総裁誕生と今までの政局をみていると、権力を握るための打算と工作、陰で暗躍する長老たちばかりが目につく。映画は「仁義なき社会は抗争を生む」といっていたが、自民党内部はまるでこの映画のようである。
かつて、自民党と有権者は、政策より義理と人情でつながっているといわれていた。そのころの自民党には、まだ「仁・義・礼」もあったということだろうが、今はカネがすべてのようだ。「五常」の残るは「智(道理をよく知り、知識が豊富)」と「信(情に厚く真実を告げ約束を守る)」だが、自民党はそれさえも失ってはいないか。