現代損保考

真山 民


  厚かましい損保ジャパンの「代理店損害サポート」制度



  頻発する大規模風水災害

6月下旬からの大雨、7月の梅雨前線に伴う大雨と台風第5号によって、今年も九州を中心に死者・行方不明・重軽傷者が出、多くの建物被害が発生している。昨年は7月に発生した梅雨前線の停滞および台風7号が重なった豪雨被害が記憶に新しい。
 毎年のように発生する大規模な風水害による多くの人的・物的損害、その損害額の査定と保険金の早期支払いに各社は頭を悩ましている。被害エリアの特定のため被災地の上空へドローンを飛ばす。損害調査の経験のある退職社員を動員する。ICT(情報通信技術)もフル活用するなど、あの手この手でスピードアップを図っている。それでも昨年の西日本豪雨災害のような大災害による保険金支払いは追いつかない。

 

  「代理店損害調査サポート制度」の概要
 そこで損害保険ジャパン日本興亜が始めたのが、風水害事故による一定の損害は代理店に任せようという制度だ。その概要は次のとおりである。
・対象代理店 募集人全員が「代理店損害調査サポート」に関する事前研修を受け、研修後の試験に合格した代理店
・対象保険商品 個人用火災総合保険(住宅火災、住宅総合、店舗総合保険は対象外)
・対象事故 水災は床上1m以下または地盤面から1.5m以下の浸水。風災は修理見積額が100万円以下(いずれも代理店が選定した事案に限定)
・謝礼・手数料 支払わない。損害調査に関する費用(交通費など)は代理店の負担。

 
代理店は歓迎?
 対象事故が限定されているが、大水害でも発生する損害は床上より床下、全壊より半壊の方がはるかに多いから、それだけでも代理店が損害査定を行ってくれれば会社は助かる。しかも費用は代理店負担、謝礼・手数料はなし、おまけにこれを実施することによる手数料ポイントへの反映も無いというのだから随分虫のいい制度である。
 一体、代理店はこの制度のどこにメリットを感じて応募しているのか、知りたいところだ。そのヒントとなるのが、この制度を実施した代理店を対象にした代理店の声である。まず、「本制度を実施して良かったか?」という質問には76%もの代理店が「良かった」と回答。「良かった点は?」という質問には「迅速な対応でお客様から満足の声をいただいた」、「お客様に『特別扱いを受けた』と感じてもらえた」という回答が寄せられている。
 「契約の拡大につながった」という回答もある。「多種目販売につながった」「生命保険を成約できた」、中には「保険料は高くなったが、共済から当社に契約を切り替えていただいた」という声も聞かれる。
 損保ジャパンの代理店とは、かくも人の好い、もしくは会社の意図を忖度する人ばかり集まっているのかと思えるほどである。


 
代理店のただ働きで保険金の迅速支払い

 風水災害による多額の保険金の支払いによって、昨年度火災保険の損害率は各社とも大幅に悪化し、100%を超えた。今後も台風や豪雨が重なれば、この傾向は続く可能性がある。一方で大災害の時こそ保険金の迅速な支払いが求められる。AIG損保は個人向け火災保険で損害規模1,000万円以上という条件ではあるが、保険金見込み額の最大50%を請求書類不要で最短10日で支払うサービスを始める
 
事業費の圧縮
で要員を抑制されているなかで、査定職員もまた保険金の迅速支払いに追われている。損保ジャパンの「代理店損害調査サポート制度」は、保険金迅速支払い競争を代理店のタダ働きで行おうという厚かましい政策ではないか。