みんなで歌おうよ⑤ 「ドイツからの来客」


守屋真実

もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 


 

先月はドイツから来客があった。元同僚の娘Jと、その友人L。どちらも21歳の学生だ。

 

 二人とも日本は初めてなので、空港か駅に迎えに行かねばと思っていたら、スマホを駆使して、自力で私宅までやって来たのには驚いた。英語は達者だが、日本語はコニチワ、アリガト、サヨナラしかできないのに、宅配の人などに道を教えてもらってたどり着いたのだから大した行動力だ。

 

 

 初めの1週間は東京に滞在し、それから、交通手段も宿もすべて自分たちで手配し、約2週間をかけて大阪、京都、広島を巡り、夜行バスで再び東京に戻ってきた。私の同僚などは全部で約4週間の日本滞在を驚くが、ドイツでは学生でなくても、3~4週間の旅行は珍しいことではない。

 

 

 広島へは私の勧めで行ったのだが、「行ってよかった」、「あんなにひどいとは思っていなかった」と、原爆資料館を訪れた感想を驚愕と怒りを込めて語ってくれた。Jはバイオテクノロジーの、Lは医学部の学生だ。核兵器と放射能の恐ろしさをはっきりと理解してくれたのだと思う。私宅にある父が被爆時に着ていた制服の写真や、倒壊した自宅で見つけた8時15分で止まった置時計を見せ、父の被爆体験を話すと、真剣な面持ちで聞いてくれ、被爆者国際署名にも快く協力してくれた。

 

 私たちは夜遅くまで環境問題や食品ロス、ヨーロッパの移民問題などについて話し合ったが、彼女たちの視点は常にヒューマンだった。私が歌っている反原発集会にも興味を持ってくれた。

 

 

 東京滞在中は、長い付けまつげをバタバタさせて渋谷のディスコに行ったり、アニメのキャラクター・グッズを買って喜んだり、いかにも若い女性らしい一面を持ちながら、政治や社会的なテーマについても、自分の考えを明瞭に語ることができる。自分の意見を言うことをためらわない、それがヨーロッパの若者の強さだと思う。

 約4週間の旅行を終え、大きなリュックを肩に、確かな足取りで去って行く後ろ姿を見送りながら、こんなに知的で行動力があり、たくましく、かつ、しなやかな感性を持つ若い女性がいることを頼もしく思った。