「AIG損保転勤廃止」を考える(その4)

前田功レポート


 

 5月号で、なぜAIG損保が転勤廃止を打ち出したか、その理由を2つ挙げた。

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 今回はその理由の追加である。

 同社の前身の一つ、富士火災は終身雇用・新卒定期採用・年功賃金という日本的雇用慣行に100年近くどっぷり漬かってきた会社である。しかしAIGは外資系。これら日本的雇用慣行を是としないところがある。

 

 転勤について思うに、例えば、新卒入社で本社の管理部門でスタートしたとしても、転勤で地方の営業や損害調査、いわゆる現場を経験し、社内のいろいろな事情を体得してゆく。現場に入った人も、しばらくすれば本社や管理部門を経験する。そうすることによって、その会社の全容を知ってゆく。いわゆるゼネラリストとして育っていく。そして30年くらい経つと、「あいつもいい歳になったな。特に失点もないのだからそろそろ部長に」とか「役員に」とかになるわけだ。

 

 しかし、外資はそんな悠長なことを認めない。コストという面でいうと、転勤は確実にコストがかかる。距離にもよるが一人転勤させるだけで当面100万はかかる。そしてその後の社宅費用は毎月だ。30年先に役員に育つかもしれないというような不確定な効用を期待してコストをかけたりしない。

 必要な場所で必要な時に必要な人材を探す。その時社内にいなければ社外から持ってくる。損保ジャパンや三井住友はそこまで徹底していない。社内から人材を求める。 

 

 もう一つ、この転勤廃止について触れておきたいことがある。

 損保ジャパンや三井住友では、地域限定社員は転勤はないが、全国型社員と比べて、昇進や昇給で著しく差別されている。三井住友では、主任昇格率は全国型と地域限定とで顕著な差があるという。AIG社は「この制度はいわゆる地域限定社員制度ではない」と明言している。(先月号に記載したパワーポイント画像の2枚目の後半に記載されている。)

 

 「いわゆる地域限定社員」という表現を使っているということは、一般に、そして同業他社において、地域限定社員は全国型と比べて賃金や昇進で差別されているということを意識した言い回しだ。「転勤してもいいです」と宣言しても社宅費用等を除いて給与に差はない。昇進や昇給にいい影響があるわけではない。

 

 大手3社で地域限定社員が差別されているということを考えると美しい話に聞こえるが、逆に言うと、モバイルもノンモバイルも大して昇進や昇給はしないということだ。

必要な場所で必要な時に必要な人材を探す。その時社内にいなければ社外から持ってくるのだから・・・。