損保経営者は薦めそうもない本


 半藤一利編・解説『なぜ必敗の戦争を始めたのか』 文春新書 

       

                岡本敏則

 


 

  今月は陸軍エリート将校反省会議を取り上げる。海軍の「水行社」に対し、陸軍には「偕行社」(将校集会所)というのが東京九段にあった。「偕」とは、みな、ともに、という意であり「偕行」とは「みんなで行こう」という意味か。敗戦とともになくなったが1952年旧陸軍有志によって再開され、月刊誌『偕行』を発行している。本書はその『偕行』の197612月号から1978年3月号まで、全15回にわたって掲載された「大東亜戦争の開戦の経緯」と題する座談会を氏がまとめたものだ。出席者は開戦当時の陸軍中枢(陸軍省、参謀本部)にいた中堅参謀だ。敗戦時中佐、大佐だった彼等も、発足した自衛隊に入り、芽出度く将官に出世した。氏は、ところどころに「解説」を入れ、内容に肉付けをしている。前回の海軍は非公開の座談会で、今回は公の座談会。雑誌に載った時も整理されているだろうから、出席者の肉声はあまり感じられない。海軍のは生々しかった。
 「三国同盟でドイツが勝つという潜在的な観念がずうっとみんなにあるから、何とかなるだろうという気持ちで動いておった。アメリカと戦さをするのは海軍で、陸軍がやるんじゃないという気持ちが、陸軍首脳部のどこかにあったと思います」。
 「若手参謀は大体、(開戦に)反対しておったんです。反対という意味は、戦争しても、勝つ見込みは少ないんじゃないかという観点からなんですよ。非常な推進力になったのは、辻政信参謀と、服部卓四郎作戦課長と田中新一作戦部長なんです。この三人が主戦論者」。

 

「なんとなく陸軍は、海軍に戦さに勝ってもらわなければ困るけど、あんまり勝ちすぎて軍艦マーチばかりやられるのは気持ちよくないという感情もありましてね」。
 「秋丸次朗陸軍主計中佐を中心とする戦争経済班の各国分析報告。石油の全面禁止で対米英戦となった場合、2年間は貯備戦力で何とか可能ですが、それ以後はわが経済戦力は耐えられない、という報告を聞いた杉山参謀総長は「分かった、然し結論は国策に相反する。ゆえに、ただちに焼却せよ」と淡々と言いましたね」。この間の金融庁の年金報告書をないものとした安倍政権と同じだね。
 最後に半藤氏の読書観。「読書にはどんな種類の愉しみがあるのでしょうか。もし共通の愉しみがあるとすれば、おそらくおのれの知的好奇心の満足という事になるのではないか。人生は忙しく短し、そして面白そうな本はいっぱいある」。