現代損保考

真山 民


          体のいい退職強要?

         損保ジャパンの4千人削減と介護事業等への転換


 損保ジャパン本社ビルと出勤風景(撮影・池田京子)                                    


 

  損害保険ジャパン日本興亜の「国内損保事業の従業員数の4千人、17年度比で2割弱削減。ITの活用で生産性を高める一方、介護やセキュリティーなど市場が伸びる事業への配置転換を進める」という方針が波紋を広げている。関係者に聞いてみたところ、方針と相まって、次のようなことが進行しているという。
1.50歳代のグローバル職層を対象にしたキャリア開発が名目の研修の実施。「今後の年収の推移や退職金、転職を支援する各種制度、中高年層の進路・働き方、要員構成と削減計画」の説明が主な内容。
2.研修は、昨年12月、1月に5556歳、今年7月10月には年齢を繰り下げて実施。「今後退職金ポイントは増えない。転職は今なら雇い先があるが決断が遅れると条件が悪くなる」と対象者に迫る。
3.4月の人事異動で新たに200人が出向し、出向者の累計は700人余り。今後も出向を増やしていくと強調。
4.新たな人事制度改定案を発表。若年層のスピード昇格の反面、リーダークラスを含め貢献と役割が低い場合のスピード降格、中高年層の賃金水準ダウンも盛り込む。
 「希望退職」は実施しないと言っているが、実際には、今後も同じ会社で働き続けるのは難しいと脅して中高年を損保という「本丸」から追い出して転職を迫り、勝手知らない介護事業などの子会社に出向させる。まことに虫のよい方針である。

 

 一方でこの方針を評価する人間もいる。河合薫という東大大学院の博士号を持つ健康社会学者もその一人、「10人中6人が50代以上となる時代に、50代以上の社員をうまく使った企業が生き残る。雇用延長した場合に、昨日とまったく同じ仕事をしているのに給料だけが激減することの理不尽さと、チームの力関係が変わることへの心理的負担を考えれば、ベテランの経験を生かせ新しいチャレンジができる仕組みが必要なのでは?」という持論に賛同する人は多いという(「日経ビジネスオンライン」7月9日)。

 知人である看護学の准教授から「50歳過ぎの人が改めて介護の現場で働くのか?」と訊かれた。「介護業界の最大の課題はスタッフの確保」という現状を考えれば、出向後に介護の現場で働く人もあろうが、それが「ベテランの経験を生かせ新しいチャレンジができる仕組み」と言えるのか? たとえ、介護施設の運営やマネジメントに従事するにしても、そこでどれだけの出向者を吸収できるのか?
 「介護事業は慢性的な担い手不足とともに、複雑で入り組んだ構造を伴い、規模の利益が働かない事業」」である(「週刊エコノミスト」6月4日号特集「11兆円市場 介護の勝者」)
 
 SOMPOホールディングス傘下の介護企業であるSOMPOケアのシニアリビング居室数は約25,500とトップ、売上高は1,239億円と2位にあるものの、経常収益は1,278億円、利益は14億円の赤字と、事業を設立して20年経過後もグループに貢献しているとは言えない。SOMPOケアが損保からの多くの出向者を吸収しながら、グループに貢献していけるのか注視していきたい。