雨宮処凛の「世直し随想」

              貯蓄ゼロと戦闘機

 国がとうとう年金制度の限界を認めた。「人生100年時代の蓄え」などとお得意の「自助」を呼び掛けながら、老後の資金として2,000万円も不足することがあるとして、資産形成の重要性を強調している。

 

 が、潤沢な老後の資産を用意できるのは富裕層だけだろう。なぜなら、この国の「貯蓄ゼロ世帯」は2人以上の世帯で31・2%。単身世帯では46・4%と半数近くになる。世代別で見ると、20代単身世帯で61%、同じく30代で40・4%。いずれも2017年の数字だが、30年前の1987年に貯蓄ゼロ世帯は全世代で3%しかいなかった。

 

 なぜ、これほど貯蓄ゼロの人が増えたのか。答えは簡単だ。例えば90年の非正規労働者は881万人で非正規雇用率は20%。今、非正規は4割に迫り、その数は2,117万人に上る。平均年収はといえば、175万円(17年、国税庁)。非正規の女性に限ると150万円。年収ベースでも、貧困ラインを30万円しか上回っていない。

 

 老後どころか、人々は今の生活にきゅうきゅうとしている。国民生活基礎調査によると、「生活が苦しい」世帯は16年の調査で56・5%。その中で、母子世帯は82・7%が、児童のいる世帯では62・0%が、「生活が苦しい」と回答している。

 

 5月、トランプ米大統領が来日した。その共同記者会見で、日本が米国からステルス戦闘機F35を105機も購入することがあらためて明らかにされた。その額、1兆円以上。この国の「お金の使い方」は、どう考えてもおかしい。