現代損保考

真山 民


過疎化助長の火災保険料率改定

                                     

        広島県福山市の水害現場(2016年6月、中山賀與子撮影)

 

損害保険料率算出機構が、昨年5月に金融庁に届けた火災保険の参考純率の値上げ(平均5.5%)が、今年10月から損保各社の火災保険料に反映される。参考純率とは保険料のうち保険金に充てられる純保険料の参考値であり、保険会社の事業費や代理店手数料に充てられる付加保険料率を含めた実際の値上げ幅は損保ごとに違い、大手4社で5%~9%の値上げになる。


 火災保険料率の前回の引き上げは2014年、この時は12年度までの保険統計データを基に算出された。ところがそれ以降、13年度の大規模な雪災(関東甲信に被害)や15年度の台風15号(九州に被害)などに加え、冬季の凍結や老朽化による水道管等の事故で水濡れ損害の保険金の支払いが増加した。それらが参考純率の値上げの理由となっている。
 さらに、昨年も西日本豪雨のほか、台風21号、24号が各地に大きな被害をもたらし、風水害に伴う保険金支払額は大手損保4社だけで1兆円台に上り、過去最大規模になった。「こうした風水害が続けば、20年以降も火災保険料は引き上げ基調が続く公算が大きい」(日経5月9日)というが、10月実施の保険料の値上げは、昨年の豪雨や台風による保険金の増大を反映していないから、引き上げは確実だろう


 参考純率の引上げ幅は地方ごとにかなり差がある。H構造(木造住宅等)の場合、三大都市圏の東京都の引上げ率は6.2%、大阪府、愛知県は引下げで、三重県が17.3%と最大の引下げだが、熊本県は25.9%引上げられている。M構造(鉄筋コンクリート造りの共同住宅等)はもっと極端で、東京都の値上げ率は20.4%、大阪府は12.0%、愛知県7.2%の引き上げで、最小は愛媛県の4.1%だが、鹿児島県は実に40.1%もの引上げである。木造より鉄筋コンクリート造りの建物の方が上げ幅が大きいのは、水道管等の事故による水濡れ損害が多いことが要因にあり、その背景には老朽マンションの増加がある。


 自然災害や水濡れ事故の事故件数は建物の築年数と関連する。一般的に建築年が新しい建物ほど耐火・耐風等の防災機能が高く、火災保険の支払いが減少傾向にある。一方で、建築年が古い建物は給排水設備の劣化による水濡ぬれ事故等で支払いが増加する。そこで、損保ジャパンは個人用火災総合保険に築年数別割引を導入し、建物の築年別の保険金の支払実態を考慮した保険料体系に改定した。すでにマンション管理組合の共用部分の火災保険には、「築年数別料率」を導入されている。今回の火災保険料率の引上げは、共用部分の築年数別料率に加え、マンション居住者には負担の重い改定となった。
 同時に、T構造(鉄骨造り等の耐火構造建物)を含め、火災保険料率について、全構造にわたり地方ごとにこれほど大きな格差を設けた趣旨が、「料率の低い安全地域に住むことを促し、災害の減少につながる」(朝日1月28日)ことにあるとすれば、損保は地方の過疎化と切り捨てを助長しているということになるだろう。