斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」


 

 

          「安心」崩れた公的年金

 退職金と年金給付をベースにした老後生活は、もはや成り立たなくなってきている。これからは個々人が、早くから将来に備えた「自助」を充実させていく必要がある――

 

 図らずもというか、あえてというのか。政府がバラ色の未来として喧伝してきた「人生100年時代」の悲惨な実相を、他ならぬ政府自身が白状した。金融審議会(首相の諮問機関)のワーキンググループが5月にまとめた「高齢社会における資産形成・管理」報告書(案)のことである。

 

 それによれば、平均寿命が延びる一方で、政府は年金支給額の維持が困難になった。少子化や非正規雇用の拡大があるためで、また退職金の水準も低下しつつある。

 

 となると年金収入しかない高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)は、月平均で5万円の赤字が必定。現状でもこの先20年で約1300万円、30年なら約2000万円の蓄えが欠かせない計算だ。

 

 だから若い頃から蓄財に励め、という。税制面の優遇がある「つみたてNISA」や、個人型確定拠出年金「iDeCo」などが紹介されていた。

 

 政府はかねて、公的年金は「安心」だとPRしてきた。たび重なる消費税増税も、年金制度をはじめとする社会保障の充実と安定化が謳われ続けている。それらはすべて嘘でしたと、今回の報告書は暴露してしまったことになる。

 

 政府に対する批判が高まったのは当然だ。夕刊紙『日刊ゲンダイ』に載った金融庁の「お金を預けられない人は対象外」「公的年金をどうするかは社会政策。所管の官庁がどうするかの問題」などという、まるで他人事のコメントも、炎上を煽った。

 もっとも、実際、問題の報告書はあくまで金融ビジネスのための指針でしかない。悪いのは金融庁ではなく、国民を欺くことしかしない歴代政権と、そんなものを支持し続けてやまない、私たち自身の愚かさである