今月の「ひと」  

             渡邉 のぞみ  さん

       過労死なくすために人生をかけてもいい

 渡邉のぞみさん(写真)が追求中の修士論文テーマは「高度成長期における日本型企業の成立と変遷」(仮題)。

  のぞみさんは論文完成を目指していま、社史などの企業側資料だけでなく、労働組合や闘った個人が残した資料をとりわけ重視し、その収集と読み解きに日夜励んでいる。40年前、全損保あげて闘い勝利した住友海上火災における解雇撤回闘争のことを知りたいと、わたしとの面談を希望されたのも、その一環だった。

 

  のぞみさんの父は、大学時代、水力・火力・原子力に頼らない新エネルギー発電の研究を行い、技術者として大手電機メーカーに就職、そこでは新しい発電技術をアメリカから導入するための日本では初めてのプロジェクトに従事していた。
 朝6時半に家を出て、夜10時半まで会社、帰りは終電、帰宅は日付が変わってから。土曜も出勤、日曜日もパワーポイントなど翌日のための資料作り。一週間当たりの残業時間は30~45時間、いくら働いても仕事が終わらなかった父。そして海外出張から帰宅した直後、11歳ののぞみさんに絵本を読んでくれながら意識を失い、脳溢血で急死した父、40歳。救急への「自分の連絡がもっと早ければ」と自らを責めつづけ、しばらく不登校になったのぞみさん。

 

 しかし、「同じように働いている人は多いが、亡くなったのは渡邉さんだけだ」と過労死を認めようとしなかった会社の態度から「人が死ぬほど働く日本型企業とはいったいなにか?」「労働組合はほんとうに労働者を守っているのか?」…等々、次から次へと数々の疑問が湧きだしてくる。一生をかけても追及すべきテーマだと決意したのだった。 

 

 「ほかに(学術論文の)魅力的な研究テーマもあったのですが、過労死をなくすことに人生を賭けるのも悪くないかと思いまして…」

 

 

 

(わたなべ・のぞみ 「過労死遺児の会」メンバー、非正規社員として働きながら、国学院大学大学院で学んでいる)

 

 

 文・ 伴 啓吾