斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」


 

 

   顔認証で脅かされるプライバシー

 国内最大手のタクシー配車サービス会社・ジャパンタクシーが、国土交通省に行政指導を受けていたことがわかった。問題は、その中身である。

 最近のタクシーは、助手席の背にあるタブレット端末に広告が流されていることが多い。同社はそこに顔認証付きのカメラを組み込み、乗客の性別を判断。広告を男女別に変えているのだが、事前の説明が不十分なのが咎(とが)められた。

 本稿が読者の目に触れる頃には、タブレット上での説明の徹底など、改善策が発表される予定ではあるという。とはいえ、そんなことで済まされてよい問題なのだろうか。

 タブレットに何が書かれていようと、わざわざ読む乗客は稀(まれ)だろう。報道では性別を知るためだけの撮影だったように伝えられているものの、それが本当かどうかも怪しい。年齢の推定をはじめ、乗車した場所の位置情報その他、収集可能なデータをかき集め、訴求対象の属性を絞り込んでこそ、消費者個々の潜在意識に働きかけるダイレクト・マーケティングの効果は増していくものだから。

 ジャパンタクシーには「前科」もある。同社は2018年11月までの数年間、配車アプリの利用客のスマートフォンから移動やネット通販での購買履歴等の情報を抜き取り、インターネット広告会社に提供していた。気づいたユーザーがSNS上で指摘し、炎上したので停止したとされるが、ジャパンタクシーの親会社・日本交通は2017年頃、顔認証やGPSを活用した独自のタブレット広告システム「Tokyo Prime」を積極的にPRしていた。今回の行政指導は氷山の一角でしかないと思われる。

 本欄では以前、乗客のツイッターに絶えず晒されるタクシー運転手さんは大変だ、と書いたことがある。見張られているのは客の側もだった。私たちはいったい何をしているのか。これは日本が生きるべき社会なのだろうか。