AIG損保転勤廃止の波紋

サラリーマンの理想実現?


前田功レポート

 

  AIG損保(旧富士火災+旧AIU損保)が、「会社都合による転居を伴う転勤」を原則廃止するという。(朝日新聞デジタル、2019327日)

 

 昭和~平成前期、損保会社にいた男性のほとんどは転勤の経験があると思う。この会社に勤めている限り、転勤はシカタナイ、いや当然と思っていた。会社は定年まで雇用を保証し、社員はその「恩」に報いるべくどこへでも転勤する。転勤を拒否するということは出世をあきらめるということと同じ。これが一般的だった。

 

AIG損保も、他の会社と同じように、社員は35年おきに全国200か所ある拠点間で転勤するのが通例だった。しかし、数年前から目立つようになったのが「転勤が困る」という理由での退職だ。配偶者の仕事、育児、親の介護、自身の病気など社員にはそれぞれの事情があり、転勤を前提とした働き方は難しいと考える人が増えてきたのだ。 

 

新制度ではまず、全国を11に分けたエリアの中から、社員が勤務を希望する地域を選ぶ。そのうえで希望するエリアでしか勤務しない「ノンモバイル社員」と、希望エリア以外の場所でも勤務する可能性がある「モバイル社員」のどちらかを選ぶ。対象者約4000人のうち、「モバイル」を選んだのは2割だった。

 

両者の給与体系は全く同じだ。ただ、モバイル社員が希望エリアでない場所で働くことになった場合にのみ、社宅や手当を支給するという。 

だが、みんなが希望するエリアで勤務できるとなれば、会社としての人員配置がおかしくなってしまわないのだろうか。 

同社では現状、エリア別の希望人数と適正な人員配置を比較すると、東京と大阪が「希望過剰」になっているという。 

今はまだ全員が希望するエリアで働けているわけではない。20219月までに、「ノンモバイル」を選びながらまだ希望の場所で働けていない社員を希望エリアに異動させたり、「モバイル」を選んで東京や大阪で勤務している社員に希望以外のエリアに異動してもらったりして、全体の調整を図っていくという。 

同社は将来的に社命での「異動」もなくしたい考えだ。空席のポジションを社内公募し、手を上げた社員と上司が面談して異動を決めるなどの制度をすでに始めている。人事担当役員は、「キャリアを自主的に作ってほしい」と話す。(次号へ)