暇工作「課長の一分」


とんかつ屋で「企業破壊分子」論

 

  暇が営業支社勤務だったころ、そのOBは、ある企業契約の仲介者だった。OBの縁者が企業の経営者だった。

 

そのOBについて、暇はほとんど知らなかったし、詳しく知ろうとも思わなかった。だいたい、暇は他の社員の社歴などには関心が薄かった。だから「社内営業」が下手くそだといわれたものだった。

 

それはともかく、その企業契約が更改の時期になると、くだんのOBから電話が入る。待ち合わせ時間と場所の確認だ。一緒に契約者を訪問するのは午前11時と決まっている。正午前に更改手続きを終えて、OBお気に入りの、近くの名物とんかつ屋で昼食をとる。お定まりのコースだ。これが3年続いた。

 

3年目の昼食時のことだ。そのOB氏が突然、「最近、社内で『ゼンソンポ』などという企業破壊分子がやたら動いているという噂を聞いたけど、ほんとうかね」と言い出した。このOB、暇がOBのことを知らないのと同様、暇についてもなにも知らないらしい。とくに、暇が少数派労組所属などとは…。黙って聞いていると話がどこに行くかわからない。早いとこ、知らせてあげたほうがいい。というわけで…

 

「そのゼンソンポ組合員の一人が私ですが」

 

アッと驚くOB氏。二の句が継げず、狼狽して食事ものどを通らずの態。自分が言い出しておいて、いまさら何をそんなに驚く。仕方ないから、暇、穏やかに説明を始める。

 

「〇〇さん、全損保は企業破壊分子なんかじゃありませんよ。こうして一緒に仕事をしているじゃないですか」

 

それでも、あまりにも予想外の展開だったのだろう。残っている料理をそのままに、ひきつった顔つきのまま店を飛びだしてしまった。

 

そんなに慌てなくってもいいじゃないですか。この話題を振ったのはそちらなんですから。大好きな名物とんかつ味わいながら、こちらの話を少し聞く余裕をもってくださってもいいじゃないですか。まず、この昼食会の費用、誰が出しているかから始めましょうか。わが支社の交際費は支社長が独占、こちらには回りません。だから、このとんかつ屋の3千円がとこの費用だって、先輩に敬意を表して私の自己責任、いや自己負担しているんです。低賃金の中から会社の交際費まで負担する。これが企業破壊分子のやることでしょうか。本当は、飛び切りお人よしの企業協力分子なんですよ、私は。