現代損保考

真山 民


国民のカネを預金から投資へ誘う

                                     

 

波紋を呼ぶみずほの巨額損失計上

 みずほFGのシステムや店舗の減損を理由にした6,800億円の巨額損失の計上が波紋を広げている。坂井辰史社長は、「広範な店舗ネットワークに大きな固定費を張り、預金の運用益で収益を上げていくのは難しくなった」と強調した。
 1990年代のバブル崩壊による貸し渋りは、企業の膨大な内部留保を招き、潤沢な資金を確保した大企業は銀行の融資に依存しなくなった。加えて日銀によるがマイナス金利政策で、メガバンクですら利ざやを稼げず、計32,000人分の業務を削る大規模リストラを断行、新卒採用も4年で3分の1と急減している。
 

 


減少する銀行の窓口

 国内銀行の本支店数は17年3月末で約12,000店と、メガバンク誕生前の2001年3月末から13%も減っている。世界各国の人口10万人当たりの銀行支店数はフランス57、イタリア48、ドイツ44、アメリカ26、カナダ24に対し、日本は16とG7諸国で最も少なくなったが、さらに減らそうというのだ(図表参照)。
 「支店閉鎖で不便を被るのは利用者で、特にお年寄りは周りに支店がなくて途方に暮れている。それでも安倍政権はキャッシュレス化推進で、ますます銀行離れを加速させ、ついていけない人々を置き去りにしようとしている」(経済評論家の斎藤満氏)

 

 損保の店舗・人員削減
 損保では2008年度から17年度までの10年で、代理店数は49,083店、営業店舗数は2,542減少した(代理店の最大数は96年度末の623,741店)。損保会社の従業員数は25,615人の増員だが、以前の非正規職員に該当する「その他職員」の27,706人の増大によるもので、効率化には変わりない。
 損保業界では自動運転によって自動車保険がいっそう頭打ちになるという予測があり、それを見越して営業店舗と人員をさらに削減しようという案を数年前から検討している会社もある。
 店舗のあり方が変われば、従業員の働き方にも大きな影響が生じてくる。三井住友銀行が来春から一般職の採用を廃止し、来年1月にも総合職に統合する方針を打ち出した。全従業員の3分の1超を占める約11,000人の一般職に動揺が走っている(朝日3月11日)。
 銀行の中には一般職に投資信託など金融商品を販売する役割も求めるようになっているが、損保では既に、従来の総合職の仕事を一般職に、一般職の仕事を以前の非正規職員、現在の名ばかり正社員にと玉突きがどんどん行われている。

キャッスレスで投資拡大
 この流れは、いま安倍政権が今年10月の消費税率引き上げと同時に推進を図っているキャッシュレス化によって拍車がかかるだろう。キャッシュレスの普及で、国民の資産を預貯金から投資に呼び込む、これが政権と財界の真の狙いだ。例えば、共通ポイントサービス「Ponta」を運用するロイヤリティマーケティングと金融ベンチャーの「ストックポイント」は、買い物でためたポイントを、株式など170銘柄に投資し、ポイントの残高が株価に連動して変わるサービスを始めた。証券口座を開設しなくても投資ができるというわけだ。カード会社が消費者のカネを投資に呼び込む事業を始めていることに、銀行や証券会社は警戒している。
 損保も自動車や火災保険が頭打ちしているなか、投資信託などのアセットマネジメントにも注力している。電子商取引(EC=イー・コマース)や情報技術(IT)関連業者がこぞって金融・証券・保険事業に参入するなか、損保も店舗や人員の削減を進めながら、新たな分野での収益拡大を目指す。それは従業員や代理店ばかりでなく、消費者の権利や利益の保護拡大とは反対の動きが伴うことに目を向けなければならない