暇工作「仕事を盗む」


学ぶって何を学べばいいの?

「仕事のやりかたくらい自分の目で盗め」
 「そんなこといわずに、教えてくれてもいいじゃあないですか。そのほうが効率的でしょ」
 飲み会でK課長とA子さんが議論していた。具体的にどんな仕事のことを言っているのかわからなかったが、結構、興味をそそる内容に思えた。二人がいなくなったあとで、そばで聞いていたK子さんが暇に問うてきた。
 「ねえ暇さん。一般論としてどっちが正しいと思う?」
 どちらが正しい?もともと二項対立問題じゃないだろう。部下としては、仕事のやり方は目で盗みながらも、機会があったら質問して教わればいい。上司としては、目で盗まれようがそうでなかろうが、教えてやりゃ、いいじゃないか。
 正直いって、暇は「自分で覚えろ」とか「先輩の背中を見て学べ」などという言いぐさは好きでない。スポ根ものじゃあるまいし。スポーツ解説やテレビドラマの見過ぎじゃないのか。中身もないのに言葉だけカッコつけている日本人の、なんと多いことか。
 「自分の目で盗む」ことは向上精神の問題。「教える、教えない」は指導問題。互いに排斥しあう概念ではない。
 それはそれとして、と暇は別のことを考えてしまう。伝統芸の伝承じゃあるまいし、損保の仕事に、学ぶべき深い技術性があるのかねと。学ぶなら損保が持つべき気高い精神だろうが、とても、そんなことが議論になっているとは思えない。
 「損保の精神?なにそれ?そんな高邁な理想が話題になるはずないでしょ。話を元に戻すよ。そもそも課長は仕事など知らないの。彼らの持っている技術ば管理術。それは部下に教えるものじゃなくて、部下をよく知ることが第一歩でしょ。つまり部下から学ぶべきは上司なのよ」
 そういうK子さんの横にT子さんが割って入った。
 「課長の管理術っていうのは、部下の管理じゃないわ。上司への自分の売り込みなのよ。そのための自己管理術よ。まさかA子さん、学びたかったのは、それ?」
 議論が八方に飛び火して混乱してきた。だが、いずれにせよ、上司のものの見方が俗流で魅力に乏しく、女子社員の方が鋭くシニカルで面白い。さすが、鍛えられているなあ。