当世損調事情


東名あおり運転事故判決考

                                                                                                         大野 省三


 今回は平成30年12月14日横浜地裁判決について考えてみました。この判決は①『直前停止行為』は『危険運転』ではない。但し、直前の4度の『あおり運転』は危険運転致死罪の実行行為に当たる。 ②本件事故は、被告人の4度の妨害運転並びにこれと密接に関連した被告人車両及び被害車両の停止、被害者(夫)に対する暴行等に誘発されて生じたものと言えるから、被害者らの死傷結果は被告人が被害車両に対し妨害運転に及んだ事によって生じた事故発生の危険性が現実化したにすぎず、被告人の妨害運転と被害者らの死傷結果との間の因果関係は認められる。 として、被告人に、『危険運転致死傷罪』により懲役18年の実刑判決を下しました。 横浜地裁判決は、高速道路上での『直前停止行為』は『危険運転』に当たらないとした上で、以前の『妨害運転(危険運転)』よって生じた事故発生の危険性が現実化したにすぎず、被告人の『妨害運転』と被害者らの死傷結果との間の因果関係は認められるとしています。 しかし、本当にそのように言えるのでしょうか。『危険運転』による事故発生の危険性は、停止行為によって一旦解消されたのではないでしょうか。仮に、あおり運転をせずに高速道路上に車を停めさせ同様の事故が起きたとしたら、裁判所はどのように判断するのでしょうか。 本件では、『危険運転』による事故発生の危険性は、停止した時点で解消されたとみるべきで、停止後に発生した事故とは切り離して考えるべきだと思います。近年の裁判所は『因果関係』を緩やかに考えるようにはなっていますが、『危険運転』による事故発生の危険性と結果との相当因果関係は否定されるべきと考えます。明らかに因果関係は中断していると思われます。本件では、結果を発生させた原因の分析と特定が曖昧になっているのではないでしょうか。(次号に続く

 

                       写真は横浜地裁(池田京子撮影)