玉木正之「スポーツ博覧会」


 

 

 

    オリンピックの映画は?

  2020年の東京オリンピックの公式記録映画の監督が、国際映画祭などで数々の受賞歴のある河瀬直美さん(49)に決まった。
 これは大変な仕事だ。なぜなら2週間に渡って繰り広げられる「人類の祭典」「スポーツの祭典」「平和の祭典」を3時間程度の映像にまとめるのだから。
 市川崑監督が公式映画を製作した1964年の映画の場合、総予算が3億7千万円(現在の価値では約10倍!)。103台のカメラと232本のレンズを使って、総勢500人のスタッフが、70時間分にも及ぶ映像を撮った。
 それを半年以上かけて約3時間にまとめた結果、完成時は元五輪担当相が「記録性がない」と酷評。「記録か芸術か」という大論争にまで発展した。が、現在では「史上最高のスポーツ映画」と評価する声が多い(私もそう思う)。
 生前の市川監督から、次のようなエピソードを聞いたことがある。
 サッカー会場だった駒沢競技場で撮影中、10人ばかりのお婆さんたちに出逢い、彼女たちに「オリンピックはどこでやってますか?」と訊かれた。
 日本中がオリンピックに大騒ぎしているので、お婆さんたちも見物に来たが、そこでは男たちがボールを蹴っているだけ。そこで「オリンピックはどこで?」という質問になったのだが、その質問を浴びせられて以来市川監督は、「オリンピックとは何か?」「スポーツとは何か?」を、考え続け、「人類は4年に一度夢を見る」という言葉に辿り着いた。そして、4年に一度の平和の祭典。「これを夢で終わらせていいのだろうか?」という言葉で映画を結んだ。
 河瀬監督は「ボランティアの活動にも目を向けたい」と発言。新しい記録映画は半世紀前のものとはまったく違うモノになりそうだ。