現代損保考


 

 

保険からも逃亡する外国人労働者

 

 拙速の陰にかくれて

 

  外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法(入管法)の改正が昨年12月8日、参議院で可決され、成立した。

 衆参法務委員会での審議時間はわずかに38時間、安倍内閣が昨年の6月に外国人労働者の受け入れを拡大を含む「骨太の方針」の決定から数えても半年しか経っておらず、外国人労働者に対する日本語教育や生活支援策、社会保障、治安対策など、具体的な受け入れ制度にはすべて先送りというスカスカの法案である。
 外国人労働者の補償に関する損害保険としては「外国人研修生総合保険」「外国人技能実習生総合保険」「外国人技能実習修了者総合保険」などがあるが、ここでは、「外国人技能実習生総合保険」について、取り上げていく。(いずれの保険も内容はほとんど同じである)
 この保険の現状を調べていく過程で、外国人技能実習生に対する日本政府の姿勢と、それに連なる利権集団の存在と実態も浮かんでくる。
 技能実習生が実習期間中に事故に遭い、死亡したり傷害を被った場合、受け入れ先の企業、農業団体、自治体、協同組合などが、当該実習生が負った負担を補償するために加入する保険が「外国人技能実習生総合保険」である。その保険の補償範囲と保険料は、別図のようになっている。

 

外国人労働者が増えれば


 この保険を、ほとんど一手に(と言ってもいいほどに)扱っている代理店が、「(株)国際研修サービス」である。公益財団法人国際研修協力機構(JITCO)の傘下にある代理

 

              (日刊ゲンダイ 2018年11月17日号)

店で、東京海上日動、損保ジャパン日本興亜、三井住友海上、あいおいニッセイ同和の大手4社が引き受け保険会社となっている。(そのほかジェイアイ傷害火災保険なども、この保険を扱っている)

 現行の技能実習制度の対象は農業関係、漁業関係、建設関係、食品製造関係など7業種だが、昨年12月の「外国人労働者の受け入れ拡大法案」が成立したことによって対象業種は介護や外食などの業種が加わり、14業種に広がる。新制度によって政府は、2025年までに「建設」「農業」「宿泊」「介護」「造船」の慢性的人手不足の5業種で「50万人超」の受け入れを目指すとしている。日経新聞の報道によると、「建設では25年に78万~93万人程度の労働者が不足する見通しで、計30万人の確保を目標にする」という。「国際研修サービス」の扱う「外国人技能実習生総合保険」や「外国人研修生総合保険」などによる保険料収入も自動的かつ飛躍的に増えることになる。
 ところで、この保険は果たしてどの程度機能しているのだろうか。
 たとえば、法務省の資料によると、2010年から17年の8年間で死亡した外国人実習生は計174人もいる。自殺や実習中の事故も多い。「フォークリフトの運転中横転して、下敷きになった」、「貨物と台車の間に頭を挟まれた」、「水道工事中に掘削中の溝が崩れ生き埋めになった日本人従業員を助けようとして巻き込まれた」など、痛ましい事故の実態が数多く報道されている。はたして、これらの研修生はその保険の支払いの対象になったのか。
 「国際研修サービス」に、そのあたりのことについて問い合わせてみた。そこで判明したのは、この「外国人技能実習生総合保険」の対象(実際に被保険者として付保されている)となっている外国人研修実習生は、約27万人のうち18万人から19万人ということだった。社会保険や労災保険を補完する任意保険ではあるが、来日実習生たちの3割は、この保険の恩恵に預かっていない。
 その理由はなにか。
 一つは、保険料という経費を渋って保険に加入しない受け入れ先の姿勢がある。その人権軽視のコスト意識が数値に反映しているのは間違いなだろう。
 二つ目には、隠された深刻な問題がある。臨時国会で野党が食い下がったにもかかわらず政府がごまかしながら、頑として実態を明らかにしなかった大量の「失踪」実習生の存在だ。実習生は受け入れ先から失踪した時点で被保険者資格を失ってしまう。保険が機能する前に、対象者が消えてしまうのだ。
 法務省の発表によれば、2017年に失踪した実習生は7千人を超し、2013年からの5年間では延べ2万6千人にも上る。失踪実習生の人数は、年々増加しており、2012年には2005人だったが、16年には5058人と倍増、17年には7089人となっている。異常な増え方である。保険の対象になる労働者数は18~19万人と先述したが、そのうちの20人に1人は保険からも逃亡しているのである。
 そうした事態について、法務省は実習生の受け入れ先の問題も指摘している。17年に不正行為を指摘された受け入れ先は213と、多くの受け入れ先機関が不正行為を行っており、その件数は299件に上る。
 不正行為で最も多いのは、全体の50%を占める労働時間や賃金不払等に係る労働関係法令の違反に関するものである。また、賃金の未払いや最低賃金以下の支払いしか行わないなどの不正行為も多い。中には時給300円というケースも紹介されている。さらには、「暴行・脅迫・監禁」や自殺などの事例も少なくない。これらが、失踪の原因に繋がっているのは容易に推定される。

 

 

 そうした事態について、法務省は実習生の受け入れ先の問題も指摘している。17年に不正行為を指摘された受け入れ先は213と、多くの受け入れ先機関が不正行為を行っており、その件数は299件に上る。

 不正行為で最も多いのは、全体の50%を占める労働時間や賃金不払等に係る労働関係法令の違反に関するものである。また、賃金の未払いや最低賃金以下の支払いしか行わないなどの不正行為も多い。中には時給300円というケースも紹介されている。さらには、「暴行・脅迫・監禁」や自殺などの事例も少なくない。これらが、失踪の原因に繋がっているのは容易に推定される。
 そして、さらに、このような大量の失踪の深層を探っていくと「外国人技能実習生総合保険」や「外国人研修生総合保険」を取り扱っている「(株)国際研修サービス」の親機構、公益財団法人国際研修協力機構や監理団体(*注)の存在に行きつく。
 公益財団法人国際研修協力機構は1991年に法務、外務、労働(当時)など5省の共同所管で設立された。現在の役員は15人で、うち9人が省庁OBで、厚労省、外務省、経産省からの再就職者がいる典型的な天下り法人である。そして、外国人技能実習生を受け入れ先に橋渡しをする権能をもっている利権団体だ。
 公開されている経常収益は約22憶3400万円だが、そのうち受取会費が17憶3300万円と8割を占める。これは、①外国人技能実習生を受け入れた企業や農業経営者からの1口10万円~30万円、②複数の企業で構成する監理団体(*注)からの1口10万円、③監理団体傘下の複数企業からの1口5万円~10万円、という会費で成り立っている。さらに、監理団体も会費を徴集するケースがある。シマを取り仕切る元締めが上納金を吸い上げることにも似ている、といえば言いすぎだろうが。

 

ボケーと生きてるんじゃないよ

 

 つまり、外国人を技能実習生を迎え入れたい企業・農業関係者などは少なくない金額を公益財団法人国際研修協力機構や監理団体に会費として支払わなければならない。そのしわ寄せが外国人実習生の低賃金や不払い、人権侵害となってあらわれる。そして、それも原因の一つとなって外国人技能実習生の失踪などにつながっていく。
 公益財団法人国際研修協力機構の傘下である(株)国際研修サービスは、保険を勧めながら、親機構に泣かされている企業や団体の実習生や研修生自らが保険の対象から外れてしまうことを本気で憂いているようには見えない。大量の保険料収入を得ながら、その保険の社会的責務について真剣に考えているように見えない。
 そして、そのような構図に直面しても、問題意識のかけらさえ示せない損保業界は、「ボケーっと生きてるんじゃないよ」と、国民から一喝されるてしまうだろう。