暇工作「課長の一分」


   自社商品販売拒否

 

 新宿西口の混雑の中でバッタリ出会った代理店のS氏。かつて日動火災で外勤社員として勤務していた、暇の尊敬する先輩である。

 

 久しぶりの一杯で、いきなり盛り上がった話題は、アメリカの量販店「ウォルマート」が銃の弾丸を販売中止したというニュースだった。 

「すごいですね。従業員が5万名の署名を集めて経営者に迫ったそうじゃないですか」 

「銃乱射事件が社会問題になっている背景があるとはいえ、自社商品の売り上げシェアが半減することを承知で、販売しないよう企業に従業員が要求するという行動には勇気が必要だったろうね」 

「それに引きかえ、日本の電力会社などでは…」と言いかけて、暇はハッと思い出したことがあった。

この先輩がかつて所属していた全損保日動外勤支部が『くたばれ!チョーソー(長期総合保険)』というスローガンを掲げて、自社の金融商品販売に抵抗した歴史的事実である。

 

 「あれはいつの頃でしたか?」 

 「1973年の組合大会です。『くたばれ長総。みんなで守る代理店制度』というステッカーを作りましてね。いまでも、それ、持っていますよ」

 

長期総合保険(チョーソー)、団体傷害保険(福利厚生プラン=マルフク)などの金融商品は、顧客に負担を強いるだけ。扱い者や代理店の利益とも相反するが、それよりなにより、モラルに欠ける商品は扱えない、という社会正義感にもとづく問題意識を基軸にしたものだった。当時、3千名の外勤社員がこぞって「販売拒否」の意思統一をしたのだった。

 

ウォルマートの従業員の行動も素晴らしいが、当時の日動外勤労働者たちの志も高かった。 

思えば、損保で売り出されている商品には、モラルに反するものが今もたくさんある。たとえば企業賠償責任保険の一環としての「不当解雇」「セクハラ」などで会社が訴えられた場合にその費用を填補する保険などがそれだ。PKO保険などという、戦争法や海外派兵に協力するかのような「安倍政権忖度保険」とでもいうべき自衛隊向けの傷害保険も密かに存在している。 

それらに対する労働組合の対応はどうだろうか。問題意識があまりにも稀薄に見える。日動外勤従業員たちが掲げた高い志を風化させてはならない。